第二十五話 予感的中

Szene-01 鐘楼前広場


 伝令から連絡を受けた役人が、見習い剣士たちに注目を促した。

 表情の硬さからすると、どうやら重大な連絡が入ったらしい。

 ただ事ではなさそうな雰囲気を感じ取ったのか見習いたちは姿勢を正し、役人へと向いた。


「ただいま伝令から連絡がありました。剣士様たちが森の中で大型魔獣を発見したそうです」


 見習いたちがざわめきだした。

 その中でエールタインは一気に暗い表情へと変わる。

 エールタインに触れているティベルダはその変化にすぐ気づいた。


「エール様」

「嫌な予感が的中しちゃったよ。なんだか胸騒ぎがしたんだ」


 ティベルダはエールタインの手をギュッとにぎりしめて言う。


「魔獣を発見したという報告だけですよ? ダン様たちはご無事です」

「……そうだね。ごめん、弱気になっていたよ。こんな時こそしっかりしないとね」


 エールタインはティベルダの手をにぎり返すことで、気を持ち直したことを伝えた。

 役人から報告の続きが伝えられる。


「そこで、見習い剣士さまのお力をお借りしたいとのこと。もしもの事態に備えて後衛の依頼です」


 見習い剣士たちがさらにざわつきだす。

 町壁の状態確認と違い、魔獣の討伐に参加となるため戦闘になる可能性は高い。

 実戦経験の無い見習い剣士たちのほとんどは尻込みしているようだ。


「参加するということは戦闘もありえます。町としては無理をさせたくありませんし、剣士様も考えは同じはず。それを踏まえた上で力を貸していただきたい! どなたかいらっしゃいませんか?」


 全員がこれから剣士になろうとしている身。

 戦闘に参加するのが剣士と考える者もいれば、剣士ではない以上足手まといになるだけだととらえる者もいるだろう。

 役人も数人が話し合いをして、一つの提案をする。


「みなさん、戸惑うのは仕方がありません。しかし、剣士様も加勢を望んでいます。時間に猶予がありません。申し訳ないのですが、こちらから勝手ながら指名させていただきます」


 魔獣を前にしている剣士たちにしてみれば、にらみ合いという状況は戦闘中と言える。

 時間に猶予などあるはずがなかった。

 役人が指名をするのはやむを得ないことであろう。


Szene-02 東西街道西門前


 森に入り込んでいる剣士たちの後方となる街道上に、選ばれた見習い剣士が等間隔に並ぶ。

 と言っても剣士たちが見えるような近い距離ではない。

 魔獣とのにらみ合いで静かにしているからか声一つ聞こえず、証石の光も全く見えないほど離れている。

 選ばれた見習い剣士は五人。奴隷を入れて十人だ。

 町で唯一となった剣聖であるダンの弟子、エールタインが一番に選抜された。

 残る四組は、上級剣士の中でも十年前の戦いにおいて特に活躍したとされる人物の弟子が選ばれている。

 その中にはルイーサ組もいた。

 ルイーサはこれ幸いと、エールタインの横の位置を獲得。

 距離は随分離れているが、ルイーサは満足げだ。


「さすがに話ができる距離ではないですね」

「いいのよ。こうしてエールタインさんと一緒に任務をこなすことができているのだから」


 ルイーサにしてみれば、出会いを求めて出会え、見習いではあるが、剣士として一緒に任務をこなすことができるなど、徐々に願いが叶っている。


「ヒルデガルド、用意はしているわね?」

「いつでも出せるようにしています。ご安心ください」

「実戦でどこまで通用するか、試させてもらうわ。けれど、私たちが戦う状況にならないよう祈らないといけないのね」


 ヒルデガルドも自身の持ち物を確認してルイーサに一歩近づく。


「そうですね。ここまで魔獣が来たら町はすぐそこ。現れることは最悪を意味します」


 前衛の精鋭が負けた相手と見習い剣士が戦うことになるのだ。

 それも実戦経験がない者たち。

 子供だましにすらならない可能性がある。

 そんな見習い剣士も含めて全町民が無事に終わらせてくれると信じて待っていた。

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