第二十四話 初仕事終了
Szene-01 レアルプドルフ西側、東西街道沿い森の中
剣聖や上級剣士たちを頭に組まれた小隊は、魔獣探索を続けていた。
最近のものと思われる足跡や木に付けられた傷など、魔獣がいる証拠は見つかっていた。
「魔獣がこの辺でうろついているのは確か。夜になると動きが活発になるはずだ。ここからは石の灯りで行動しよう」
ダンの指示に従い、剣士たちは首から下げている石を袋から出す。
全員の証石がそれぞれの階級色で光っている。
「この光景を眺めているだけなら気分がいいんですがね」
一人の上級剣士がつぶやく。
「悲しいことにこの状況は戦闘時である証拠。だがこれのおかげで士気も上がる。好ましくないってことでもないんだよ」
「そうですね。レアルプドルフの一人なんだと勇気づけられます」
「さあ、これからさらに気合を入れていくぞ。冷静さも忘れずに。引き続きどんな小さな情報でも構わんからその都度伝えてくれ」
魔獣を刺激しない程度に全員が一斉に声を上げた。
皆不安を感じる中、どこか楽しんでいる様子も混じる。
剣士としての血は沸き立っているようだ。
Szene-02 レアルプドルフ、鐘楼前
鐘楼前では町壁の調査を終えた見習い剣士たちが戻っていた。
町壁は、一部強化工事が必要ありの報告があったものの、おおむね問題が無いという結果となった。
安堵する見習いたちが、それぞれの従者や知り合いとの間で話が弾みだす。
その中にエールタインやルイーサたちも混ざっている。
「大きな問題は無さそうで良かったね。あとはダンたちだけど、まだ戻ってきていないのかな」
「ダン様とヘルマさんは魔獣を探しに行っているのですから、心配ですね」
「戦うことが前提だから心配だね」
剣士総出で向かっていることが魔獣の恐ろしさを物語っている。
これまでの経験上、大型の魔獣相手には総攻撃が必要であると刷り込まれてきた町だ。
気を抜けない状況なのである。
「いずれはその仲間になるんだ。強くなってみんなの力になろうね」
「エール様となら私も強くなります! ですからエール様、いっぱい甘えていいですか?」
「ん!? あ、甘えるの? そんなのいつでもしなよ。甘えてくれた方がボクもうれしいし」
「やった!」
その場で小さくはねるティベルダ。
横にいた他の従者が驚いている。
奴隷の扱いが家族型になってきているものの、付き人感は拭えていないのが実状だ。
従者は常にぬかりがないようにという緊張感がある。
しかし、ティベルダはキャッキャッと喜んでいるのだから驚くのも無理はない。
おまけに主人も手をつなぎながら微笑んでいるのだから。
「お疲れ様、エールタインさん」
遅れてルイーサたちが到着した。
珍しくエールタインたちをすぐに見つけることができたようだ。
「お疲れ様。ええっと、る、る、る?」
「エール様、ルイーサ様ですよ」
小さな声で、ティベルダが教える。
「あ、そうそう、ルイーサさん」
「んー、いいわ。細かいことは気にしないの。そちらは問題無かったのかしら?」
「何もなかったですよ。安心しました。自分の目で見ることが大事ですよね。そちらは?」
「そ、そうね。こちらも大丈夫よ。ね、ヒルデガルド」
急に振られることに慣れているヒルデガルドはすぐに返事をする。
「はい。それなりの経年劣化は見られますが、問題と言えるような箇所はありませんでした」
「私も実際に見て安心したわ」
「この町の壁はすごいですよね。改めて守られているなあって思いました。早く剣士になって、あの壁のように町を守らないと」
ティベルダの頭をなでながら決意を語るエールタイン。
ルイーサは、そんな顔に見とれながら少し表情を曇らせた。
「あの……同じ見習い剣士同士なのだから、堅苦しい口調はやめましょう。今後色々と情報交換やお話をしていくのだから」
「え。でもまだ会ったばかりだから」
「あら、もう随分会っている気になっていたわ。五回目だったかしら」
「二回目です」
「あん、まだそれだけなの!? そう、仕方ないわね。では何度も会いましょう。よろしくて?」
「ああ、まあ、よくわからないけど、剣士を目指す方とお話するのは興味があるので、よろしくお願いします」
ルイーサの圧に負ける形でエールタインは返事をした。
「では明日を楽しみにしているわね」
思わずほころんでしまう顔を必死で隠すルイーサ。
「外回り組が何事もなければいいんだけど。それさえなければ会えますね」
エールタインはダンたちのことが気になっているために、ルイーサとの話に身が入らない。
その逆でルイーサは喜びを隠せないようで、ヒルデガルドの腕をつかんで表情に出ない様こらえている。
見習い剣士たちの話し声が大きくなってきた頃、伝令が役人の所へ情報を伝えに来た。
「剣士様からの報告です。ただいま大型魔獣を発見し、にらみ合いが続いている模様。魔獣の動きによっては戦闘になるとのこと」
役人にだけ聞こえるように小さな声で伝える。
「場所は?」
「街道北側の森の中。道から見えないほど奥のようです」
「剣士様からの要望はある?」
「念のため、後衛として見習いを選抜して街道に配置して欲しいそうです」
連絡を受けた女性の役人は表情が険しくなる。
「みなさん、連絡がありますのでお静かに願います!」
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