第十四話 デュオの修練初日

Szene-01 ダン家、庭


 エールタインとティベルダが買ってきた材料で色々な物が作られていく。

 ティベルダは修練ということで新品の革ブーツを試してみた。

 家の前で歩いたり走ったり。

 すると動きが鈍くなり、足が痛いと訴えた。


「どうかしら。すれにくくなったと思うけど」

「はい、ずいぶん良くなりました」

「良かったわ。靴ずれしていたら動けないものね」


 ティベルダ用のまだなじんでいない革ブーツの中に柔らかい生地がはられた。

 そのはき心地におどろくティベルダ。


「すごい……固さがさっきと全然違います」

「ヨハナは細工が上手だからね。ボクの使うものはほとんどヨハナが使いやすくしてくれているんだ」

「革も出来るだけ柔らかくしてみたの。まだ効果は薄いけど、やらないよりはマシだから」


 その場で何度も足踏みをして確かめるティベルダは笑顔が絶えない。

 そんな光景には一切触れず、草原の中を歩いてゆくダン。

 それに気づいたティベルダがあわてて背負い鞄を手に取った。

 エールタインが小声でダンに聞く。


「始める?」

「ああ。早くその子の特徴が分かった方がいいだろ」

「うん。なんだか気合が入っているような……」


 ダンの表情が硬くなり、野太い声で答えた。


「ティベルダ、最初はボクがどんな動きをするのか見ていて。合わせて動いてもいいよ。もし動くならダンへの攻撃は無しね」

「わかりました」


 いよいよ新生デュオの修練が始まった。


Szene-02 ドミニク家、ルイーサの部屋


「おきれいな両腕に痛々しいすり傷なんて」

「剣士になるのだから傷ぐらい仕方ないわ」

「樽を抱えて出来た傷ですけど」


 師匠からの罰を受けた後、腕に力が入らなくなったルイーサ。

 ベッドに横たわっている。

 その事にもあきれた師匠は治るまで修練を延期すると決めた。


「何よ」

「ルイーサ様をじっと見つめていられるのが幸せなのです」

「私は地獄を味わっているのよ! おまけにあなただけが楽しむなんてあり得ない!」

「治ったらお好きにしてください」

「……考えておくわ」


Szene-03 ダン家、庭


 ダンは最小限の動き、エールタインは常に動いてダンの隙をうかがう基本のパターン。

 フェイントを何度もかけ、時々アタックする。

 しかし全て半身の移動か剣ではじいてエールタインの攻撃を簡単にかわす師匠。

 それをジッと見つめるティベルダは、終始片足のつま先を地面に引っ掛けて自分の出番を見極めていた。


「また攻めが単調になっているぞ。バレバレだ」

「うーん、牽制しているのにだませていないんだよなー。ダンだから?」

「脚を生かしての牽制はお前の強みだ。だがな、使い過ぎると目が慣れてしまう。敵が困惑しているうちに一撃を入れろ。自分で気付いて欲しかったが……」


 ティベルダがエールタインのそばに寄ってきた。


「エールタイン様。とても速い動き、おどろきました。それで、あの――」


 ティベルダは言いずらそうにモジモジしている。


「ああ、何か言いたいんだね。気にせず教えて。ティベルダもしっかり修練を積んできた人だ。それも助手としての修練ならなおさら。ぜひ聞かせてよ」


 主人からの要望だ。

 ここは言われた通りにするべきだが。


「すみません。私からご主人様に意見しようとするなんて……失礼しました」


 深々と頭を下げると同時に、背負っている鞄が落ちかける。

 それを見てエールタインはとっさに鞄を支えた。


「危ないよ。ほら、頭を上げて」


 姿勢を戻したティベルダの両肩に鞄の肩紐がはずんだ。

 年齢、身体、どちらから見ても鞄がはずめば倒れてしまいそうなバランス。

 しかしティベルダは何事も無く普通に立っている。

 倒れると思ったのか、エールタインは背中に手を回そうとしていた。


「あ、あれ? 大丈夫だね」

「え? 何かありましたか?」

「いや、後ろに倒れるかと思ったから」

「すみません。弱々しく見えますか?」


 エールタインは大きく左右に首を振る。


「謝るのはボクの方だよ。修練を積んできた人と言いつつ鞄の重さに負けるような気がして手を差し出してしまったんだ」

「それはエールタイン様がおやさしいからです。私に謝るなんてお止めください。ご主人様は常に正しい。ご主人様が常に最良でいられるようにするのが私の仕事。それだけ、それにつきるのです」

「ティベルダ……」


 ゆっくりとティベルダを抱きしめるエールタイン。

 そこへ草原の中から野太い声が聞こえてきた。


「仲がいいのは分かるが……今は修練中だぞ! そんなのは後だ、あと!」


 腰に手をやり、話に区切りがつくまで待っていたダン。

 師匠としてはここが限界のようだ。

 しかし、剣士の修練。

 問答無用で修練を続けるのが本来であろう。

 エールタインに対するダンの気持ちがうかがえる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る