第十三話 秘めたもの
Szene-01 ダン家、食卓
一日中歩いた後の夕食後。
ティベルダはヨハナとヘルマに別部屋へと連れていかれ、採寸をされるらしい。
食卓にはダンとエールタインが残った。
「ダン、今日少しだけ感じたよ」
「ほう。やはり能力持ちか」
師弟のみの時、ティベルダが能力持ちか否か、持っているのならばどのような能力なのかを探る話しをしていた。
今回の買い出しでは必要品の調達が主ではあるが、この能力探りもされていたようだ。
「何かあったのか?」
「あのね、手をつなぐとかあの子に触れていると、何かを流し込まれているような感覚があるんだ」
エールタインの話を興味深そうに聞いているダン。
「それはヒールだな――ふむ、ヒーラーならばありがたい。立ち回りがガラリと変わるぞ。こりゃあすごい子がウチに来たかもしれん」
「ダン、ティベルダはボクのだよ。もちろん一緒に住んでいるから手伝いはさせるけど。ダンの子じゃないから」
「はっはっは。どうも良い事は俺のものだとする悪いくせが出るな。エールよ、お気に入りになる子で良かったな」
「それはすごく思うよ。こんな出会いって奇跡だよね」
ふいにエールタインは両手をたたいた。
「そういえば! 目の色が変わったんだよ、オレンジ色に」
「目の色?」
「うん、一瞬だったけどね。歩いていた時にボクの話をしていたらティベルダが気を使うものだから、流れで抱きしめたんだ」
「いいじゃないか。エールはヨハナとヘルマの二人と、それもたまにしかそういうことはしていなかっただろ?」
エールタインは、三人がいる部屋の方を向いて答える。
「抱きしめたくなる人がいるって幸せだね。その時にね、目がオレンジ色なのを見たんだ」
「確か能力者の目色の変化は気持ちによるものだと聞いたことがある。もっと心が近づけばはっきりするのかもしれないな。これであの子が能力持ちなのは確定だろう。これから何を見せてくれるか楽しみだ」
「あんまり試すようなことはしないでね。一緒に生活していれば自然に見せてくれるだろうからさ」
「お前は本当に優しい子だなあ!」
ダンはエールタインの頭をかきむしるような勢いでなでた。
Szene-02 ダン家、ヨハナの部屋
ヨハナとヘルマに採寸されているティベルダ。
両腕を四十五度の角度で上げさせられている。
「ティベルダの表情がすっかり明るくなって」
「早いわよね。エール様が優しい方だからなのでしょうね」
その話を聞いて、ティベルダは初対面の時を思い出しているようだ。
「エールタイン様は本当に優しい方です! 素敵過ぎて大好きです!」
「あらあら。他の奴隷が聞いたら大変なことになるから、外では言っちゃだめよ」
「ヘルマの言う通り。ブーズでも少し良い事があると人の目が厳しくなるでしょ? 繁華街に近くても色んな環境の人がいるから、自分にとって良い事を知られない方が無事なの」
ティベルダは満面の笑顔を出したばかりだが、二人の話を聞いた途端に暗い顔へと変わった。
「そうですね。今日も入れ墨で痛がっている人を見ました。みんなが良いご主人に会えたわけじゃないんですよね」
「それを見たの? ならエール様のことを考えてしまうのは分かるわ」
「そうね。うちはずいぶん良い環境で暮らさせてもらっているから。私たちも証は指輪。入れ墨なんて必要無いって最初から信じてくださって。もう命を張るしかないって誓ったわ」
しゅんとしながらもティベルダは何かを言いたげだ。
「素敵なんです、エールタイン様は。大声で叫びたいぐらいに」
「エール様に伝えてあげて。喜ぶわよー。ずいぶんと照れるでしょうけど」
「ただし、この家にいる時か、エール様と二人きりの時だけよ。それだけは守ってね。エール様のためにも」
「はい!」
上半身の採寸は終わっているが、両腕を上げたままのティベルダ。
それに気づいたヘルマが片腕をつかんでゆっくり下げさせる。
「もう下げていいわ……ふーん、ちゃんとしっかりした腕をしているわね。見た目は可愛らしいのに」
「エールタイン様に嫌われますか?」
「逆よ。しっかりしていないと心配させるばかりになってしまうし。無理はせずに頑張ってね」
ヘルマが測った部分に印を付けた木の物差しを使い、生地を切り始めるヨハナ。
その横でヘルマはティベルダの頭をずっとなでていた。
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