ボクっ娘剣士と奴隷少女の異世界甘々百合生活

第十二話 キスと罰

Szene-01　南北街道、三番地区前

　それぞれ荷物を抱えて歩くエールタイン一行。

　その二人の耳に少年の悲鳴が届いた。

「ギャーッ！　痛い、痛いよ」

「だからよ、お前は俺の奴隷なんだから逃げ出そうとか無理なのが分かんねえのか。ったく焦って選んで失敗したか。もう一人って余裕もねえしなあ。お前がきっちり動かねえと困るんだ、よっ！」

　左腕を抱えている少年を前に愚痴をこぼした男は、背負っている荷物ごと少年を引っ張り上げる。

　無理矢理立たされた少年は涙をこぼしながらまだ腕をかかえていた。

　それを目撃している中にちらほらといる少年少女はおびえている。

　ティベルダもおどろいた様子でエールタインにたずねてみる。

「あの、あれは……」

「袋で分からないけど、石を首から掛けているから剣士の男だね。だからあの子は助手。たぶん逃げようとしたんだ」

　奴隷には契約の証として入れ墨を入れるか指輪をする。

　主人は指輪のみ。

　主従関係が破綻しそうになった時――契約不履行につながる意思を発した際――入れ墨又は指輪に混ぜ込まれた魔獣の血液が反応し、主から奴隷への嫌悪度に応じた毒を放出する。

　この毒を浴びると複数の針を刺したような激痛におそわれる。

　少年の場合は腕を抱えていることから入れ墨なのであろう。

　であれば毒は体内で放出されるので痛みも強烈になる。

「ティベルダ、荷物を貸して」

「でも」

「いいから」

　エールタインは荷物を地面に下ろさせる。

　すると束ねている紐を結びなおし、背中に背負えるようにした。

「これで少しは歩きやすくなるよ。手もつなげるからね」

　自分の荷物も結び直して同じく背負えるようにする。

　そしてティベルダと手をつないだ。

「びっくりしたね。あれが嫌なのとティベルダは女の子だから指輪にしたんだ。ただでさえ厳しい時期を乗り越えてきたのに、ボクの所に来てさらに辛い思いは出来るだけさせたくないから」

「エールタイン様……私、幸せです」

「それはどうかな。あんな風になる物を身に着けているのは彼らと一緒。でもね、できるだけ幸せを感じてもらえるようにはしたい。それなのに危ない目に合わせる事が分かっているから、正直つらいんだ」

　エールタインはティベルダの手をしっかりとにぎりながら唇をかみしめる。

「戦いはエールタイン様のせいではないです。それと、私はエールタイン様から離れる気がないので、怖くないですよ？」

「ティベルダ……」

「エールタイン様に嫌われないよう頑張らないと！　まだお世話になってばかりなので」　

　にぎった手を引き寄せ、顔を近づけるエールタイン。

　二人は歩きを止めた。

「来て間もないし、お互いに知らない事も多い。今はうちの生活になれてもらうことが優先。他のデュオはどうだか知らない。君の主として言いたいことは――」

　顔の真横で話し続けられているティベルダは終始真っ赤。

　しかし真剣に話すエールタインの言葉を一言一句聞きのがすまいと必死な表情だ。

「お互いに幸せを感じられる関係を築く事。主と奴隷ではなく、最高のデュオを目指すんだ」

　その言葉を聞いてティベルダが振り向いた時、唇が触れてしまった。

「はっ、あ……」

「あは。キスしちゃったね」

「はいって言おうとしたのですけど、その、すみません」

「なんで？　一番良い答えをもらったと思うよ。少し照れくさいけど、ボク達デュオの証って感じがして、好きだよ」

　ティベルダは感情をおさえきれないようで、足踏みをしていた。

「キスに驚いちゃったのかな。ボクも初めてだけど嬉しかったから、ティベルダもうれしいといいな。さすがにまだ早いか」

「うー、うー、すごく凄くドキドキして良かったです！」

「なんだ良かったのか。ならさ、たまーにしよっか。安心したい時とかね」

「……はい」

　エールタインは、すでに恒例になりつつある頭なでを軽くすると手をつなぎなおす。

　買い物を楽しんだ気持ちをくずされたが、それがきっかけとなり二人の距離が縮まった。

Szene-02　二番地区、ルイーサ宅

「ヒルデガルド、水って重いのね」

「よく存じております」

「いつもありがと」

「今も代わって差し上げたいのですが……」

　ルイーサは自主練習をしていないことが師匠に知られ、罰を受けていた。

　これはルイーサの日常。

　懲りないのである。

　今回は水の入った小型の樽を両脇にかかえている。

　師匠であるドミニクは半ばあきらめ気味。

「ルイーサよ。そろそろ師匠に嘘をつく事だけでもやめろ。剣士になろうという奴が嘘つきでは盗人と変わらないぞ」

「はい。申し訳ございません」

「その棒読みもやめろ」

　あきれた顔をしてからため息をつき、家に戻る師匠。

「あの子が会ってくれないんだから仕方ないじゃない」

「お話をした事もございませんが」

「そのお話をしたいと言っているのよ」

「……はい」

　相変わらずなルイーサの機嫌を損ねないよう気を使うヒルデガルド。

　しかし気を使う事でルイーサを止められないでいるとも言える。

　立場上、どうにもできないでいるわけだ。

「ヒルデガルド」

「はい」

「今日も部屋に来てね」

「必ず参ります」