36 迷宮
金……金が欲しい。
ラヴィニアに通信で金を借りれないか頼んでみた。即座に通信を切られた。
先程は「今度は私が助ける番です」とか何とか言っていたが、どうやら金銭的には助けてくれないようだ。まあ仕方ない。
ナタリアやナイア辺りなら頼んだら貸してはくれそうだが、後が怖い。奴らに借りを作ったら何を要求されるか分かったものじゃない。
仕方ないので、その日の夜、俺はリリーに対して提案した。
「リリー。明日は学園が休みだから、
「は、なんでよ?」
唐突な俺の発言に、リリーは首を傾げる。
しまった。少し急きすぎていたか。
「『
「そうね、危険な場所だっていうのは分かっているわ」
でもそれは覚悟の上よ、とリリー。
その決意は立派だが、護衛である俺としては間違ってもリリーを死なせるわけにはいかないのだ。
「だからこそ、
学年主席というだけあって、リリーの魔術師としての才能は傑出している。
高い魔力量に加え、火と風の二属性に強い適性を持つ彼女の才覚は、現役の宮廷魔術師や『
唯一リリー・エントルージュに足りないのは、実戦での経験だ。
まあ、仮にも王女であるために仕方のない話なのだが、あの場所に行くというのならばそうも言っていられない。
「そういうわけで、
「ちょっと待って!」
「なんだ?」
「理屈は分かるわ。私自身、実際に魔術を使って戦った経験なんて数えるくらいしかないから。けど、
「知らなかったのか? 数え切れないほどいるぞ」
『
『
辿り着くまでに荒野の
「都市の中も中で先日襲撃してきた奴らみたいな危険な人間がわんさかいるが、それでも『
「それが、
「ああ」
俺は頷いた。
地上に出てから、空間転移を使っていくつか
そういうレベルの怪物が『
「だから、少しでも対
「……分かったわ。なら明日行ってみましょうか」
「ああ、場所の選定は任せろ」
内部には大抵、
俺は現在進行形で護衛任務の最中だから、一人で勝手に迷宮探索に乗り出すわけにはいかないが……リリーの訓練という大義名分があれば、ラヴィニアとて文句は言わないだろう。
「くくっ」
「な、なによ……」
「いいや、なんでもない」
思わず笑みを零した俺を、リリーは不気味なものを見るような目で眺めた。
金だ……金さえあれば、全てが解決する。
あの店で売っていた
それに、運がよければ
そうなればそれを売って金を手に入れることもできるし、良さそうなものならばそのままコレクションするのも良いだろう。
実際、リリーの実戦経験に関しては必要だとは思っていたため、これは……一石二鳥だ。
□
「話したらアイリスお姉さまも行きたいって言ってたから連れてきたわ」
「その、迷惑でなければ……よろしくお願いします」
申し訳なさそうに頭を下げるアイリスを見て、俺は嘆息した。
「おい、俺は空間転移でお前を
「別にそっちはバレても問題ないでしょ? むしろ、アーク・オルブライトは魔術を使えなかったんだから」
「くっ……」
リリーだけならばナタリア一人でも十分守りきれるだろうが、アイリスも加えた二人を守るとなると、万が一の可能性もある。一人ならば抱えて逃げられるが、二人だと両手が塞がってしまうからだ。
加えて予定では、かなり危険な
危険な
そっちの方がリリーの訓練になるためである。いや本当に。
しかし残念なことに、リリーの訓練をナタリアに押し付けて
リリーが満面の笑みを浮かべる。
「よろしくお願いするわね、ノア?」
「ちっ、仕方ない……」
訓練の最中に運良く宝物が見つかるのを祈るしかないか。
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