2015年02月
(2月5日)
三年ぶりの深川の雪
しんしんと降る寒い夜
雪景色が風物詩だった頃いずこ
今またしんしんと降る 甍の雪
古寺 古社 杉木立 樫の木
朽ちたくぬぎ 閉ざされた木戸
みさかいなく白く塗り替える
辰巳の女の黒髪にかかる白雪
姫の体を溶けて濡らす
寒さのなか うごめく温もり
冬の夜の息 また白くなって消える
夜の黒と雪の白に 月影無量
遠い路地の拍子木きこえ 雪踏みしめる足音近く
足早に遠ざかって夜にまぎれる
残るのは風雪のこごもった低い声
ふいに身震い 白い息遣いの先
川魚の尾鰭ひるがえる
深川の川面 夜の深さを映す
川浪に揺らぐ皓月
雪は川に落ちて溶け また降りまた落ちて溶け
深川の水かさは増す
冬の夜の場景 書き割りのよう
絵師の手になるような黒と白のあいだ
しんしんと雪と夜とが深まってゆくだけ
(2月10日)
晴れた空の下を歩いてる
石畳の先 ショウウィンドウに春色ときめく
思いがけず足を止める 一陣の風吹きわたる
恋い焦がれる私のまなざし
好きなものは好き 好きな人は好き
泣いたり笑ったりしながら
春の通りへ一緒にお出かけ 軽快なステップ踏みながら
都会の鳩の真っ白な背中 やわらかい羽毛の絨毯の上
今日は難しいことは図書館の奥に置きっぱなしで
赤レンガの空から なにげなくあなた見上げた東京の空
大理石の床 エンタシスの白亜の柱 パリと見まがう
かわいい私をさっと連れ去って
青く晴れた東京の空の下
ここが私たちの都
好きなものは好き 好きな人は好き
(2月11日)
大きな大きなエアバスのなか
ジャズとともに眠ればすぐさま南国の空気
静かに小さくつぶやいたグッバイ
熱帯の南半球 まるでヨーロッパ人の旅行記
エアポートゲートくぐれば熱帯夜ひろがる
白い明りのなか 蘇鉄が三日月にのびて息をする
教会 モスク 立ち並んで
昼も夜も今も 人々の祈る声ひびく
わたしもそっと手を結び 目を閉じて祈りたくなる
黒い肌の男がもつプレート
あやしげな誘い文句が並ぶ
ダウンタウンまでひとっとびのイエローキャブ
異国の蒸し暑いあやしげな夜を切り裂く
町の熱気にほだされて
一度なくした愛 急速に取り戻す
(2月16日)
ぶらり立ち寄った街角の本屋
愛する人と入るバルトナイン
真夜中にうとうとと見るテレビ
会社帰りに通る眠った夜の美術館
いたるところにアートの花が咲いている
一輪挿しにして 花束にして 花壇にして
色とりどりに咲き誇ってる
君はどう思うだろうか
僕の喜ぶことを選ばないで
本当に思ってることを
本当の花を見せてほしい
君の周りにもほら
いたるところにアートの花が咲いている
アラビアのコーヒーに浮かぶ絵
額の中のアメリカンポップアート
君のファランジリングにも
色とりどりに咲き誇ってる
気がつけば僕の周りは
いたるところ色とりどりの花でいっぱいになってる
うれしい すぐにでも君に届けたい
そう思って顔を上げると
そばにはもう君の笑顔の花が咲いていた
(2月17日)
毎日毎日 書いてもなお尽きることがない
こんこんとわき出ることばの泉
喫茶店の奥の片隅で
城址公園のベンチ 梅の木の下で
波の寄せる防波堤 海に突き出た先端で
自然と賛美する言葉が浮かぶ
僕はまた急き立てられて
ペンを滑らす どこだって いつだって
浮かんでも消えないように
書いて写真のようにして残す
読んで音楽のようにして残す
それだけで 夜更けに寂しくなっても
また明日が来ることを素直に祈れる
毎日が賛美されていて 僕と君とに降り注ぐ
そんな毎日がいつまでも続いていくような気がする
理由なんてないよ そう思うから思うのさ
(2月22日)
①
君と会う予定の日曜日は晴れ
うれしくて水曜日の空を見上げる
スマートフォンからは情報の津波
ロンドンの街中で爆発
メトロのなか目を閉じる
古い知り合いからのLINE
懐かしくて話題が尽きない
タップ スクロール スワイプ
夢中になってたら
突然のアラート 充電切れ間近
いまここで途切れたら 僕はもう
世界 友達 恋人からも引きはがされて
遠い 深い 暗いところへとまっさかさま
②
厚い厚いガラス瓶のなか
小さな小さな天地がある
君の小部屋の片隅
夢が詰まってる部屋の
さらにその隅っこの端
硬い硬いガラス瓶のなか
うららかな春の一日が今日も過ぎてゆく
中世の大海を進むガレー船
狭い狭いガラス瓶のなか
荒れた海を切り裂く船乗りたちの声が響く
リンドバーグのプロペラ機
透き通るガラス瓶のなか
七つの海をまたにかけた冒険がある
(2月26日)
広すぎるキャンパスの片隅
五号館では憲法のお経ながれる頃
心地よいメロディに誰かが眠りに落ちる頃
人を逃れるようにやってきた公園
太古の昔のおえらい博士の名前がついてる
人目とどかないところ
しがらみ 桎梏から解き放たれる
君と一緒だったらなんて良いだろう
現実は 時間と暇を持て余して
ひとりで何も考えずにやってきた
そのくせ 君のことを考える
身も心も浮かれるような 春の午後を夢見てる
缶のコーラ噛んでくわえて
木洩れ日のすきまから 皮肉なほど真っ青な空をにらむ
雄大な空は僕のことなど見てもいない
キャンパスのなかにさえ数千の人人人
空の下には数えきれない人の喜び悲しみ怒り苦しみ
キャンパスの片隅
五号館ではリバタリアンの講義始まる頃
眠ってた誰かはまだ起きる素振りもない
人から逃げてきたこの公園で
過去現在未来からぽっかりとここだけくりぬかれたと感じる
ああ いまようやく目が覚めた 自分も 五号館の誰かも
さっきまでのなにげなく過ぎると思ってた一日が
思いがけず ありがたい春の午後になった
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