第24話
眼に入ってきた部屋の様子は、明らかに僕の部屋では無かった。女性の部屋だと思った。そして、どこかで警報の音が鳴っている。咄嗟に地震かと思ったのか、頭を覆うが揺れが来ることはなかった。それにしても夏とはいえ、冷房を付けているのに暑すぎる。だが、その理由は鼻に入ってきたにおいで身をもって知ることになった。煙のにおい、それが示すのは火事。扉を開けると下に降りる階段は、煙で先が見えなくなっていた。どこから火が出ているかは分からないが、階下はもう炎に包まれているようだった。段々、目がかすんでいき、またあの白い場所へとやってきた。
「親友が死んで、どんな暗い顔してるのかと思ったら、決意に満ちた表情って感じだね。」
「赤池、今日で全て終わらせるよ。それと、赤池が僕に言ったことの答え合わせをしてもいいかな?」
「どれのことだか分からないけど、いいよ。何も知らない君が、どれだけ当たるのか楽しみだ。」
「まず、赤池舜はパラレルワールドの僕だよね。」
「正解。それは初めて会った時から確信していたんじゃないの?」
「うん、そして赤池は上手く行かなかった世界の僕なんだろ?」
「お、というと?」
赤池は興味津々と言った口ぶりで続きを聞きたがった。
「自分が死んだ状況を僕に夢で見せることで、僕の行動を変えようとした。今までの夢は全部、パラレルワールドの僕が、いや僕らが経験したものを、生き残っている僕らに見せているのだろう?」
「まさか、ここまで言い当てるとは驚いたよ。全部その通りだ。」
そう言って、赤池は満面の笑みを見せた。
「因みに僕が死ぬ原因は、やっぱり明日香なの?」
「まぁ、そこまでは分からないよな。答えはノーだ。そもそも、他の世界での僕らは明日香ちゃんに会ってすらいないんだからな。」
赤池の答えに、僕は動揺を隠せなかった。
「どういうこと?僕だけしか明日香には会っていないの?」
「そうだよ。僕らが危険な目に遭っているのは、僕ら自身の問題だよ。」
「そうだったのか。あと気になったんだけど、赤池はあと何人の僕が生きているのか知っているの?」
「知ってるよ。君が最後の一人だ。昨日、永覚に五人くらい殺されちゃって君だけになっちゃったんだ。だからこそ、君に僕らは期待している。」
「全部終わらせるから、期待して待っていてくれ。」
目覚めた僕は、リビングに向かう。母が、朝食の準備をしていた。
「おはよう、舜。もう学校無いのに早く起きてるってことは、もしかして明日香ちゃんとデート?」
「まぁそんなところかな。今日は遅くなる思うから、夕食はいらないよ。」
「分かったわ。明日の夜ご飯はお赤飯ね。」
母にからかわれながら、朝食を摂る。食べ終えると、すぐに家を出た。今日の夢が誰の死ぬ夢なのか、僕には察しがついていた。ただ、夢で見た光景では辺りが暗かったので、火事が起こるのは夜だろう。まだ十分時間がある僕は、まず学校に向かうことにした。昨日の事件で、学内に入ることは禁じられているが、僕は事件の関係者ということで、特別に入れてもらえた。
「亀崎くん、待っていたよ。」
「おはようございます、徳重さん。それで、どうでした?」
「ビンゴだったよ。君が調べてくれと言った人物だが、それぞれ三人との関係が確認できた。しかし、それだけでは証拠としては足りないな。電話やメールを一切使わずに、足が付かないようにしているような奴だ。自宅を調べ上げても、何も出てこないかもしれないから困っているところだ。」
「何か案はあるんですか?」
「一応、今朝から自宅の前で張り込みはさせているが、あの事件の直後だから、しばらくは動きを潜める可能性が高いだろう。」
「そうですか。」
警察の現場検証にしばらく付き合った後、僕は以前、三人で来たショッピングモールへ向かった。僕はそこで、花とあるものを買った。そして、僕は駅に戻るまでの道に花を置いた。
「顔も名前も知らなくて申し訳ないです。あなたも僕に殺された一人かもしれません。すみません。それでも僕は明日香が好きです。」
目をつぶって手を合わせる。
「こんなところで告白しないでもらえる?」
その声の正体は僕が一番よく知っていた。
「この道は嫌いだから通らないんじゃなかったの?」
「私にはあなたがいるから通れるようになったわ。」
「明日香、今までのこと全部話したいな。」
「あそこの公園でいいかしら?」
「もちろん。」
僕らはベンチに並んで座った。
「まず一番大事なことは、明日香は死神じゃなかったってことだよ。」
「それだけじゃ何も分からないわ。順を追って説明してもらってもいいかしら?」
「分かった。かなり長くなっちゃうけど、聞いてほしい。」
最近、自分が死ぬ夢ばかり見ていたこと、僕の代わりに他人が死ぬようになったこと、パラレルワールドの僕のことなど、この一週間の出来事を長々と話した。
「じゃあ、私の周りで事件が起こったのは、ただの偶然だったのね。」
「もしかしたら、それも僕が原因かもしれないけど。」
「大体、話は分かったわ。それにしても、舜は他の人を犠牲にしてもいいと思うほど、私のことが好きだったのね。」
「そうだね。僕もいつから明日香のことがそんなに好きになったのか思い出せないから、一目惚れなんじゃないかな。」
「よくもそんな漫画みたいな恥ずかしいこと言えるわね。」
「君のためなら、どんな恥ずかしいセリフだって、言える気がするよ。」
「そう。じゃあこれからも舜にはいっぱい恥ずかしいこと言わせるわね。それと私は買い物する予定だったから、そろそろ行くわ。」
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