第22話
その後すぐに、徳重さんや教師陣がやってきた。それからのことはあまり覚えていない。俊哉と永覚が救急車に乗せられ、僕は徳重さんに起こったことの全てを話した。本当は、俊哉のもとへ付き添いたかったが今、僕が病院に向かっても何の役にも立たない。それよりも、この凄惨な事件の解決に尽力するべきだと思った。
「大体、話は分かった。親御さんを呼んでおいたから、今日のところは帰っても大丈夫だ。一番つらい思いをしているお前さんをここまで拘束して申し訳ない。」
「徳重さんが謝ることじゃないですよ。」
僕はそれだけ言って、学校の正門へと歩き出した。僕は、夢で撃たれた場所に立ち止まる。今朝の夢では、僕がここで死んでいたはずだ。あのまま僕が死んでいたほうが良かったのだろうか。いや、そもそも僕が明日香に関わり始めなければ、今まで僕の代わりに死んできた人たちが死ぬことは無かったのだろうか。どれだけ考えても、答えは出ないし、過ぎ去った時間は戻らない。
「こんなところに立って、どうしたの。舜?」
母に話しかけられる。
「何も無いよ。何も。」
「舜は昔から、お母さんに相談せずに、自分で考えこむタイプだったわね。それがいけないって訳じゃないけど、誰かには打ち明けなさいよ。」
母はそれだけ言うと、車に向かった。僕は助手席に座っている間、一言も喋らなかった。ふと周りの風景を見ると、自宅へと向かっている道では無いことに気付いた。しばらくして、車が止まった場所は、病院だった。
「ほら、行くわよ。」
無言で母に付いて行く。病院の手術待合室という場所に連れられると、中には俊哉のご両親と美玖ちゃんがいた。美玖ちゃんは目を真っ赤にしている。どう声をかけて良いのか分からず、口をつぐんだ。すると、僕に気付いた俊哉のお父さんに話しかけられる。
「君が亀崎舜くんだね?」
「はい、そうです。」
「話したいことがあるからちょっと、外に出ないか?」
そう言われ、病院の外へと出た。責められる覚悟はできていた。俊哉は僕の身代わりになって銃で撃たれたのだ、何を言われても受け入れようと思っていた。
「まずは、俊哉といつも仲良くしてくれて、ありがとう。」
「いえ、俊哉は僕にはもったいないくらい、素敵な友人です。」
「君がそう言ってくれて、俊哉も喜ぶと思う。それで俊哉の容態だが、今日中に意識が戻らなければ、厳しいと医者に言われたよ。」
「そう、ですか。」
「それで、僕が伝えたいことなんだが、君には俊哉が撃たれたことを気に病まないで欲しいんだ。」
打ち明けられた内容は、僕の想像していたものでは無かった。
「理由を聞いてもいいでしょうか?」
僕を非難してくれ、そうでなければ僕は自分を許すことができない。
「それが、俊哉の願いだからだよ。」
「どういうことですか?」
「昨日の夜、久しぶりに俊哉と二人だけで話したんだが、俊哉は君の話ばかりしていたよ。そして、君を守るためなら死ぬことも厭わないとね。」
つまり俊哉は、僕の夢の内容を変えることを協力すると言ったあの時から、代わりに自分が死ぬことになるかもしれないということをあらかじめ覚悟していたということか。
「そうだとしても、僕のせいで俊哉が銃で撃たれたことは事実です。本当にすみませんでした。」
「私は犯人を恨むことはあっても、君を恨むことは絶対に無いから謝らないでくれ。あとこれは私の考えだが、俊哉が君を身を挺して守ったのに、君がそのことを謝罪するのは俊哉に対して不誠実だとは思わないか?ただ、君は堂々としていればいいだけだよ。」
僕は、言われたことを反芻する。俊哉のお父さんの言葉をすべて理解できたわけではないが、堂々としていればいいだけという言葉は、心に刻み込んだ。
「さて、戻ろうか。」
待合室に戻ると、美玖ちゃんは椅子で眠っていた。
「この子、泣き疲れて寝ちゃったみたい。舜くん、帰るなら送っていくけど、どうする?」
「お気持ちはありがたいのですが、俊哉の手術が終わるまではここにいていいでしょうか?」
「分かったわ。私たちはコンビニで食べ物とか買ってくるわ。」
そう言って、俊哉の両親は待合室から出ていった。僕は待合室で手術中と光っているランプを見つめることしかできなかった。
「あれ、お母さんたちは?」
美玖ちゃんが目を擦りながら、僕に聞いてきた。
「食料とかの必要なもの買いに出かけたよ。そのうち戻ってくると思う。」
「お兄ちゃんは助かるよね?」
声を震わせながら、聞いてきた。
「僕らには助かると信じて祈ることしかできないよ。」
「そっか。」
無言の空間に耐えられず、スマホを見ると明日香から連絡が来ていた。僕は外に出て、明日香に電話する。
「もしもし、明日香?何か用だった?」
「千春さんから全部聞いたわ。今、どこにいる?」
「どこって、病院の敷地内だよ。俊哉の手術が終わるのを待っているとこ。」
なるべく、いつも通りの声色を装った。
「舜、疲れているみたいだけど大丈夫?」
「心配かけてごめん。こっちは大丈夫だから、気にしないで。」
「全然、大丈夫な顔してないじゃない。」
その声は、電話越しではなく、僕の目の前から聞こえてきた。
「明日香。」
「舜は死神と呼ばれていた私のそばを離れずにいてくれた。今度は、私が舜を助ける番だよ。」
明日香はそう言って、僕のもとへと駆け寄ってきた。僕は明日香を抱きしめる。
「大丈夫だよ、舜。ずっと、自分の感情を押し殺していたんでしょう。私の胸でいくらでも泣いていいからね。」
僕は人目も気にせずに声を上げて泣いた。僕のせいで俊哉が、と何度も懺悔した。明日香は何も言わずに、そっと頭をなでた。
「落ち着いた?」
「うん、泣いたら自分が今、何をすべきか分かった気がするんだ。」
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