第14話

 六日目


 水の中だということはすぐに気づいた。水中に大きな石などがあることから、川の中だろう。流れが激しく、体も思うようには動いていないようだ。息が苦しくなり、口を開いてしまう。水が急激に口の中に入り込む。気道に水が入る。恐らくそこで気を失ったのだろう。僕は今日の夢を見終えた。

 溺れていたのは男だったが、着ていた服と同じものを僕は持っている。だが、溺れると分かっているのなら、対策はできるだろうと思っていた。


「昨日、小学二年生の永覚将大くんが踏切事故によって命を落としました。目撃者の情報によりますと、永覚くんは歩きながらゲームをしていたようで、そちらに熱中し、電車が来ることに気付かずに轢かれてしまったようです。事故が起こった踏切は警報機と遮断機が無い第四種踏切だったことがこの事故が起こってしまった原因の一つであり、市は踏切に警報機と遮断機を付けることを検討しているとの見解を示しました。」


 リビングでは、昨日の踏切での事故がニュースでやっていた。


「まだ若いのに、悲しい事件ね。」

「そう、だね。」


 自分がこの事件に関わっているとは言い出せなかった。


「それで、舜は今日暇よね?」


 朝食時に母から聞かれた。


「土曜だし、寝て過ごすよ。」

「寝るのは学校でもできるでしょ?せっかくの休みなんだから、出かけるわよ。あ、もうすぐ着くみたい。」


 しばらくして、インターホンが鳴る。扉を開けると、いとこの雫ちゃんがいた。


「舜兄さん、久しぶり!」


 茶髪がかったショートカットの雫ちゃんは、僕の五つ下の小学六年生だ。会うのは正月ぶりだろう。


「久しぶりだね。それで、今日はどうしたの?」

「おばさんがキャンプするから、どうって誘われたの。」


 初耳だった。僕はどうやらキャンプに連れていかれるらしい。


「そうなんだ。父さんは仕事だし、僕とお母さんと雫ちゃんの三人で行くんだよね?」

「おばさんはもう一人誘ったって言ってた。」

「舜、キャンプ行くから準備しなさいよ。」


 キャンプと言っても、川の近くでバーベキューをするだけらしい。今朝見た夢はその川でおぼれ死ぬ夢なのだろう。絶対水には入らないと思いつつ、準備を進める。


「車の鍵開けて、折り畳みの机を車に載せてくれる?」


 そう言われ、車のトランクに荷物を積もうとする。すると、

「おはよう、舜。」


 僕の家の車庫にいたのは、明日香だった。


「なんで、いるの?」


 単純な疑問しか出てこなかった。


「千春さんに誘われたのよ。」


 千春というのは、僕の母の名前だ。どうやら、以前家に来た際に母と連絡先を交換していたらしい。


「あら。明日香ちゃん!着いたなら教えてくれればよかったのに!」

「ご無沙汰しています、千春さん。今日は誘ってくださって、ありがとうございます。」

「そんな堅苦しい挨拶要らないわよ。さ、乗って乗って。出発するわよ。」


 助手席に明日香。後部座席に雫ちゃんと僕という風に座った。


「それにしても、舜兄さんにこんな美人の彼女さんがいるなんて知らなかったわ。」

「教えていないからね。あと、母さんは明日香も来ることをどうして黙ってたの?」

「驚かせたほうが面白いじゃない?」


 女性が三人集まると姦しいという言葉通り、三人はひっきりなしに喋っていた。


「私は料理人になるのが夢なんですけど、明日香さんは夢とかあります?」

「へぇ、それはいい夢ね。私はこれと言ってないけれど、お嫁さんには憧れるわね。」


 明日香は笑みを浮かべてこちらを見る。


「フーッ!舜、ちゃんと聞いた?これは叶えてあげないとねー。」


 母が楽しそうに囃し立てる。


「私も憧れます!女の子なら誰しも憧れますよね。私も死がふたりを分かつまでって言ってみたいです。」

「結婚する時の有名なセリフね。まぁ私たちは言わなかったけど。」

「どうしてですか、千春さん?」


 明日香が不思議そうに母に尋ねた。


「秘密よ、秘密。」


 母はそう言って笑うとそれ以上何も言わなかった。


「えーっ!気になるよー。」

「それはそうと、そこ右に曲がったら、着くよ。」

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