第7話
一日目
「そうだ!ちょうど、舜がここ出るかもって言ってたところがテストで本当に出て助かったぜ。これで、数Bは赤点回避したも同然だな。」
なんで、
「大問一個分じゃあ、まだ安心は出来ないでしょ。あと、理系なのに数学が苦手ってこれから先、不安だよ。」
どうして、
「国語の方がもっと苦手だから安心してくれ。」
「それは教える側からすると安心とは程遠い場所にあるね。」
僕は、俊哉と会話している夢を見ているんだ。今、僕が見ている夢は・・・。
「最近のこの辺、工事ばっかりだな。これ以上都会にならなくてもいいけどな。」
ガランッ!どこからか音がする。
「そうだ」
突然、視界が暗闇となった。そして遠くから俊哉の声がする。
「おい、大丈夫か!」
「舜、今日からテストなんでしょ?」
「え。」
眼を開けると、母が部屋で立っていた。
「珍しいのね、舜が自分から起きないなんて。頑張って一夜漬けしてたの?」
「そんなまさか。今日、学校行ってからしか勉強しないよ。」
「そう、それで成績悪くならないならいいわ。早く着替えて、ご飯食べなさいよ。」
そう言われ、扉が閉められる。間違いない、今日の夢で死んだのは、
「僕だ。」
会話の内容からして、帰り道に死んだとしか思えない。つまり、裏を返せばそれまでは危険が訪れないということだ。
「おっす舜。今日は少し雰囲気が違うか?」
「それ美玖も思いました。今日の舜さん、いつもより、目がシュッとしてる気がします。」
いつもは目が死んでて悪かったな。俊哉は、テスト週間で朝練が無い美玖ちゃんと一緒に登校していた。
「別にいつもと雰囲気変わらないよ。それよりも、今回も赤点を取らないくらいには数Bの勉強してきたんだよね?」
「この前の休みに、舜がテストで出そうって言ってたところは勉強してきた!他は知らん!」
「やっぱりお兄ちゃんはかっこいいなあ。」
やはりそうだ。今日の帰り道、僕は死ぬ。だが、どうやって死ぬ?気づいたときには、もう暗闇だった。考えろ、何がある?
「おはよう、みんな。じゃあ私は急いでいるから。」
「あれ、富貴さん。おはよう。」
明日香が僕らを抜かしていく。
「なんか、今日は富貴さんも変じゃないですか?」
「それ俺も思った。なんか素っ気ない感じ?」
「ほら、僕らも教室行くよ。」
教室で朝のホームルームが終わり、期末テストが始まった。今日のテスト科目は古典と数Bの二つで、お昼前には、テストが終わる。それよりも重要なのは僕がどうやって死を回避するかだ。手っ取り早いのは、その道を通ったせいで死ぬのなら、その道を通らなければいい。ただ、違う道でまた夢と同様に死ぬのなら、回避できないことになる。ただ、僕の夢では死ぬはずだった一ツ木さんはまだ生きているし、バスジャック犯をその拳で倒したということで、以前よりもテレビに出るようになっていた。全ては試してみないと分からない。
「あと、半分だぞ。」
テスト監督の先生が時間を告げる。もし今日死ぬのなら、テストを受ける必要はないのだが、明日香に死なないと約束したので、問題を解き始める。
「おし、時間だ。答案用紙を後ろから回せ。次の時間まで、解散で。」
一時限目のテストが終わり、僕は明日香のもとへ向かう。そういえば、夢では明日香の姿が見えなかった。
「今日は放課後、用事あるのか?」
「残って、先生に質問がしたいことがあるけど、どうかしたのかしら、亀崎くん。」
「必死に好きじゃないふりしてるんだな、明日香。」
「なんのことか分からないわ。次のテストの勉強がしたいから、自分の席に戻ってくれる?」
「一週間だ。僕がその間、死ななかったらまた、デートしたいな。」
僕はそう言って、自分の席へと戻る。
「待ってる。」
後ろから小さな声だが、確かにそう聞こえた。
「座れ、問題配るぞー。」
数Bのテストが始まる。まず目に入ってきたのは、僕が俊哉に出ると言った問題だ。すぐに、テストを解き終え、帰り道について考える。
考えられる対策は大きく分けると二つ。一つは帰る時間をずらすこと、もう一つは帰る道を変えること。どうやって死ぬかは分からないが、この二つのどちらかを変えれば、回避できるはずだ。問題は僕が死なない未来に何が起こるかだ。これはもう、起こってみないと分からない。
「じゃあ、今日はこれで終わりだけど、まだテストはあるからな!まっすぐ帰れよ。」
テスト監督をしていた男性教師の注意を聞き流しつつ、僕は帰る。
「あれ、富貴さんは一緒じゃないの?」
「明日香は残って勉強していくらしいよ。」
「へえ、やっぱ真面目だな。」
「あのさ、今日はいつもと違う道で帰らないか?」
「やっぱり今日の舜は変だよな。どうかしたのか?」
「多分、全部終わったら、俊哉にも言えると思う。だから、今は何も聞かないで待っていてほしい。」
夢のことを俊哉に伝えたほうがいいのだろうか?もし、夢のことを言えば、俊哉は僕に協力してくれるだろう。だが、これは僕と明日香の問題だ。それに俊哉を巻き込む訳にはいかないと思った。
「そうか、舜がそこまで言うなんて初めてだな。分かったよ、何も聞かないでおく。そんじゃあ、折角違う道で帰るなら、ファストフード店でも寄るか。」
「いいね、それ。」
やっぱり、俊哉は一番の友人だ。
ファストフード店で、俊哉に勉強を教えつつ、時間をつぶす。
「明日は三教科もあるのかー。どれに絞った方がいいかな?」
「勉強する範囲を絞るならまだしも、勉強する教科を絞るなんてありえないよ。」
「そうか?これは勉強しなくてもいけるみたいな教科ないの?」
「僕はあるけど、俊哉には無いでしょ。」
「はいはい、すごいすごい。」
「また、出そうなところは後で連絡しとくよ。」
「ほんとか!もう、勉強も疲れたから帰らないか?」
「そうだね、もういいかな。」
夢で見た道を通らずに帰る。俊哉と別れた後、常に周りに気を配って歩いていたが、自宅に着くまで特に何も起こらなかった。
「まさか、家に強盗が入ってくるとかは無いよな。」
何も起こらないと逆に不安になる。明日、テストがある教科の教科書を流し読みし、テストで出そうなところを俊哉に送る。一通り送り終えたあと、リビングに行くと母が帰ってきていた。
「そういえば、学校の近くで事件あったらしいじゃん。」
「そうなんだ、どんな事件なの?」
僕は表情には出さないように、聞き返す。
「ビルの工事中で上から、鉄骨が落ちてきたんだって、近くにいたサラリーマンが地面に跳ね返った鉄骨に当たって亡くなったらしいわよ。」
つまり、夢の中での僕の死因も工事現場の鉄骨の落下が原因だろう。
「恐ろしい話だね。」
「ほんとよ、舜も気を付けないとね。」
夕食の後、今日のことについて振り返る。今日の落下事件について調べたが、事件が起きた時間は、僕が夢で見た時間と恐らく一致している。恐らくというのは、夢の中では時計を確認してはいないからだ。だが、おおよその時刻は太陽の位置を見ることで分かる。
そして、場所も夢で見たものと一致する。つまり、時間と場所の二つは、明確に死を回避する方法になるということだ。今回、亡くなったサラリーマンが僕の代わりに被害にあっているのか、それともただ単に運悪くその場に居合わせたかは分からない。だが、夢で死ぬはずだった僕の代わりに他人が死んだということは紛れもない事実だった。
「今日も眠くなってきたし、寝るか。」
さて、明日はどうやって死ぬのだろうか。
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