!この武器は組み立てが必要な剣です!

ちびまるフォイ

武器に振り回されるようではまだまだ

「はいよ、5000カネだ。ここで装備していくかい?」


「いえ、あとで装備します」


「それじゃ装備は道具袋に入れておくぜ」


武器を買った後で、今の武器から装飾具を外す。

すべて外し終わってから売却し、道具袋を開いた。


「さて、装備しなくっちゃ!」


道具袋には以下のものが入っていた。


・刀身

・柄

・ネジ

・組み立て説明書

・その他パーツ



「……あ、これ自分で組み立てるやつ……」



魔物が魍魎跋扈もうりょうばっこする草原で私は途方に暮れた。


「いや、諦めちゃいけない。

 もう武器売っちゃったし。

 大丈夫。私だってできるはず」


説明書は親切に絵が多めで解説されている。

きっとできるはず。


「……あれ? ネジかっったいっ……!!」


指示通りに剣の刀身と柄のつなぎ目にネジを通す。

あまりの硬さに刀身折れるんじゃないかと思うほど。

モンスターと戦うときにすら出さないほどの力でネジをゴリ入れる。


「はぁっ……はぁっ……もっと……通しやすくしてよ……」


息も絶え絶えになり、次の工程を確認するため説明書を見直す。



「……これ、逆じゃない?」



よく見ると、柄の上下が逆さまになって刀身を固定していた。


持ち手側の方に刀身がくっついてしまい、

剣を取り付ける側を握るというあべこべな形になっている。


「えええええ……こんなに頑張ったのにぃ……」


全力でネジを入れたことでネジ穴は潰れてしまった。

また新しい装備を買い直すお金なんかない。


「明日にしよう……」


意気消沈した今の状況ではできないと戦略的撤退を敢行。

やる気に満ち溢れた明日の私がどうにかしてくれると思った。


翌日の私の前に現れたのは説明書を紛失した

ジャンク同然の剣が落ちているだけだった。


「うそ!? 説明書は!? なんでないの!?」


風で飛ばされたのか、黒ヤギさんが読まずに食べたのか

昨日あれだけ私を迷わせた説明書は姿を消していた。


あったらあったで「わかりにくい」「どういうこと!?」と

悪態をついていたけれど失くなったら大いに困る。


「ま、まあ。難しい部類でもないし大丈夫でしょ。

 プラモデル作るわけじゃないんだし……」


部品を見ればだいたいの位置もわかると信じ、

私は独学で剣の組み立てをはじめた。


「……え? なにこの宝石? どこにはめ込むの?」


「これネジ穴かなぁ? 何通すんだろこの部分」


「あっ……今なんか変な落としたけど、だっ……大丈夫よね」


魔物と戦うはずの武器と戦うこと数時間。

私はついに剣を作ることができた。


「やったーー! ついに完成!! ……と思う!」


改めて残ったパーツを振り返る。


「なんかやたらネジ余っちゃったなぁ……。

 結局、装着できなかった宝石は諦めたし

 どこに使うかわからない部品も多いけど……まあいいか」


剣の形にはなっているということで、

私の中で「完成」ということにした。


さっそく剣を構えてみる。


「……なんか刀身グラグラしてる気が……」


柄に固定したはずの刀身は右に左に揺れている。


ネジが抜けなくなったので柄は上下逆さま。

コウモリの羽のように広がった装飾部分が握り手に突き刺さって持ちにくい。


お店で見たときはもっとかっこよかった気がする。


「だ、大丈夫……。これでも切れ味は変わらないし……」


転んでケーキを台無しにした後みたいな言い訳をしつつ、

私はかねてから目をつけていたダンジョンへと進んだ。


「ゴアアアア!!」


「出たわね! 見てなさい!

 この新しい武器であんたなんか一刀両断にしてやる!!」


剣を前に構えようと頭上に振り上げたとき。

スポン、という音とともに刀身が抜けて地面に突き刺さった。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!??」


その後どうなったかは想像にお任せする。


ダンジョンで剣の刀身を素手で振り回した私を見た人は、

後に「剣の舞」という技を完成させたと噂で聞いた。


とにかく、こんな目に会うのは散々だと

私は今度から組み立てが簡単な武器を選ぶことにした。


「えっ? 鎖鎌って鎖部分も全部自分でやるの!?」


「なんでトンファー持ち手が穴にはまらないのよぉ~~!!」


「変なギミック追加しないでよ! 組み立てが複雑になるじゃない!!」


古今東西あらゆる装備を試した。


けれど、どれもうまく組み立てることはできなかった。


実戦にかぎって落ちたり、外れたりが頻発した。

その度に私は魔物に追い回されて半泣きにさせられる。


もっと簡単に使える武器を。

もっと組立不要ですぐに使える武器を。

もっと女子でも扱える武器を。


そうして自分の中で究極を追い求めた結果ーー。



「私はこの鋼の肉体を手に入れたんですよ」


「お、おお……」


武器屋の店主はあまりの迫力に言葉を失っていた。


「それじゃ、この店にある剣をひとつください」


「その肉体があるんだからもう必要ないだろうに……」


「ええ。どんな敵もワンパンで木っ端微塵ですよ。

 でも、私はこの筋肉を手に入れたときに気づいたんです。

 苦手なことから逃げずに立ち向かうべきだって」


「それじゃ武器の組み立てを克服するために

 今も武器を買っているってことかい?」


「はい。もっとも、作っているときに壊しちゃうんですけどね♪」


私は可愛くウインクをした。

あまりのキュートさに店主は歯をガチガチと鳴らしている。


「それじゃ失礼します。装備ありがとうございます」


「おい。待ってくれ。ひとつだけ言ってもいいか」


「はい? なんでしょう」


店主はあまりの恐怖に声が震えていたが

どうしてもそれだけは聞いておきたかった。




「あんた、そもそも魔法使いだろ……?」

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