第102話 濡れた制服、過去の記憶 現在 (チビ視点)


 俺は現在、この世界の知羽ちゃん、いや知羽君とやらの中に、知羽ちゃんと一緒に入っている。



 もちろん、馬鹿な犬のフリはしているけどよ。



 あと、例の調整人の力とやらが上手い具合に働いて、助かってんだよな。



 つまりだ、知羽ちゃん、知羽君の考えは俺には全て聞こえている。



 だが、俺の考えは二人には聞こえてねーみてーだ。



 俺は二人に聞こえて欲しい言葉を上手く選ぶ事が出来ているって訳よ。



 だから「何?」とか何にも考えてねー、ただの犬のフリが出来るって訳だ。



 まあ、基本、犬だから、走る事は好きだし、知羽ちゃんの役に立てると嬉しいから尻尾も勝手に揺れちまう。



 まあ、それは仕方ねー事だ。


 

 レルちゃんという妖精や、ブチという猫の後を俺や知羽ちゃんの心(魂)が身体の中に入っている知羽君が走り公園内に入ると、そこには俺達が探していた茶子おばあさんという人がいた。


 一応、俺も心配しては居たが、無事だったみてーだな。




 ホッとした所だったがそれよりも目が離せなくなる存在がそこには居た。


 茶子おばあちゃんの隣にびしょ濡れでベンチに座っている美少女が......。





 彼女には影がない。


 見たら分かるが彼女は幽霊、魂だけの姿、しかも結構な時間が経ってしまっている。




 だけど、それだけじゃなくて俺の中で何か違和感があったんだ......。




 あの制服、見覚えがある。


 俺の過去の記憶が、俺が普通に生活していて、幸せだったあの日々が、残像の様に浮かぶ。



 知夜ちゃんの、俺が普通の犬だった時のご主人様の姿が俺の脳裏を横切った。



 俺は心を揺さぶられてしまった。

 動揺しちまっていたのかもしれねー。



 知夜ちゃんの映像を知羽ちゃんや知羽君にも見せてしまった。



 

【何? 今、頭に浮かんだ女の子、誰? 

なんだか格好は違うし、体型ももっと背が高い気がしたけど、私に似てた。

私がもうちょっとお姉さんになった様な感じだった。


なんでこんな映像が頭に浮かんだんだろう?】



 知羽ちゃんが動揺しちまってる。



 しまった。


 俺はなんだかドキドキしながら二人の心の中での会話を聞いていた。


[俺にも見えたよ。なんだか俺が女装した姿みたいで複雑だった]



 知羽君の言葉にさらにちょっと焦っていた俺だが、二人とも、何の意味がある映像が分からない様だから、ひとまず俺は気を取り直して深呼吸をした。




 思わずワンッと声を出さない様に気をつけねーとな。




 俺は顔を軽く振り(俺は心、魂の姿だから振った様なイメージだ)もう一度、知羽君の目を通してびしょ濡れ女学生幽霊の顔を見た。



 目があった時、女学生幽霊が動揺した。


『知夜ちゃん、なんで、なんで知夜ちゃんがいるの? 知夜ちゃん、私、知夜ちゃんに謝りたい事があったの知夜ちゃん』



 カスレ声で喋る女学生幽霊の声。




 俺はその声を聞いて思い出した。



 あの綺麗な女学生幽霊は俺が普通の犬だった時のご主人様、知夜ちゃんの親友だった女の子だ。





 あの時の記憶、薄れてきてしまっているが俺は思い出す必要がありそうだ。


 そう思った。


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