第98話 調整人の中のヤツとの約束 三年前〜今(チビ視点)




 そうだ。


 調整人のじーさんが言っていた。

 じーさんの中のヤツとはコイツの事だな。



 じーさんから話は聞いていたが、確かに胡散臭そうだ。



 悪人という感じでもないがコイツのせいで、色々と世界がおかしな風になっているんだよな。




 俺はコイツが何の為に俺の前に姿を現したのか、不思議に思い、警戒しながら睨みつけた。



 が、俺は見た目はナリがデカいタダの犬だ。



 目つきも別に悪くはない。



 必死で睨みつけたとしても、キョトンとした顔になってしまうだろう。


 まあ歯をむき出しにすれば流石に睨んでいると分かるだろうが、何をされるか分からねーからそれは我慢した。



『あの少女、知羽ちゃんと言ったか。優という少年の事が好きなんじゃったか?』



 ハスキーな声が俺の頭に響く。



 知羽ちゃんの部屋に飾っている花瓶の水が、少年の声に重なり揺れながら音を出している。



 


『知羽ちゃんと優という少年、赤い糸でしっかり繋がっておるよ。



じゃが、なんか普通にそのまま結ばれても面白くないじゃろて、ワシがちょっと硬く結んでやったぞい。


やはり愛とは障害があるだけ大きく強くなるものよのぅ』


 そう言いながら調整人のじーさんの中のヤツがフォッフォッフォッと不気味に笑ってやがる。




 知羽ちゃんと優の奴に何をしやがったんだ?


 糸を硬く結んだ?


 どーいう事だ?




 知羽ちゃんが元気ねーのは、コイツも原因なのか?




「ウーワンッ! ワオーン。ワンワンッ(お前! 知羽ちゃん達に何しやがったんだ。元に戻しやがれ)」



『なんじゃ、お主とも知羽ちゃんは繋がっておるぞ? お主と知羽ちゃんは赤い色よりもすこし薄い色じゃな。


お主も知羽ちゃんと優という少年が結ばれない方が都合が良いじゃろ?



ワシはお主と仲良くなりたいんじゃ。



この身体の主はワシの事を認めようとせんからな。



ワシはもっと力をつけなければならん。

それにはお主の力が必要じゃ』



 コイツ、一体、何を言ってやがるんだ。


 俺は歯をむき出しにして睨みつけ唸り声をあげた。


「ウーワンッワンッワン!!(なに言ってやがる! 知羽ちゃんが悲しむ様な事、俺が嬉しい訳がねーだろうが! さっさと元に戻しやがれ)」




 俺が本気で怒っている事が伝わったのか調整人の中の奴は少し困った様に笑った。


『良かれと思ってしたんじゃが、お主、あの知羽ちゃんって少女が好きなんじゃろに......。難しいのう。糸の結び目は心のすれ違い。


中々、解くのも難しいし、時間もかかるのじゃ』



 俺は襲いかかる寸前という様に調整人の中の奴に詰め寄った。


『分かった分かった。ワシが悪かった。


三年後、ワシとワシの体の主(調整人のお爺さん)の力を解放させる時があるんじゃ、その時、ある場所が一時的にワシ達の空間とこの世とが繋がるんじゃ。


そこに二人を連れてきなさい。



ワシ達の力が上手く作用すれば再び二人の赤い糸も元の結び目のないモノに戻るじゃろ



じゃが、それが上手くいったらお主はワシに味方をするんじゃぞ?』




 俺はそれに返事はしなかった。



 そう言って消えた調整人のじーさんの中のヤツ。



 俺はアイツを信用していなかった。



 だけど、どんどん元気がなくなっていく知羽ちゃん。




 俺はあの日、あの調整人のじーさんの中のヤツが言っていた所に二人を導いちまった。




 俺のした行動は、確かにまた二人の絆を取り戻したのかもしれねー、いや、まだどうだか分からない。



 だけど、知羽ちゃんを危険にさらす事にも繋がってしまったのかもしれねー。




 俺は道を間違っちまったんだろうか?






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