第94話 知羽ちゃんとの出会い。俺の心の変化(三年前)(チビ視点)




 その日は俺はあるアパート前でウロウロしていた。



 俺は寿命が長い、だが、肉体はずっと若いままじゃねー。



 少しづつ、少しづつだが歳を取る。




 長く生きている分、随分と賢くなった気がする。



 俺は運命の調整人のお願い事を聞く為に、後継者探しをしていた、訳じゃねー。



 だけど、俺は久しぶりに俺が執着している人間に出会っていた。



 パワーチャージ球体。


 そう名乗ったヤツは、ある女の子を見た時「間違った」そう呟いた。


 

 ユニークな顔の丸い物体。


 パワーチャージ球体は、俺の横でフワフワな丸い身体をボールの様に弾ませながら、ピョーンピョーンと跳ねる。


 その球体のちょーど目にあたる部分に細い目の様なものが突然現れ、そう呟いたのもビックリした。


 そして、細い糸目を波の様に歪ませ、顔を赤くしながら落ち込んでいる様だった。





 その内、普通の糸目に戻り、気を取り直した様に、大きく伸びをする様な仕草をした奴は俺の横にしばらく居座りある女の子を観察し始めた。



「おい、お前、じーさんの、調整人のじーさんの持ちもんだろう? 戻らねーと、心配しないか?」




 そう俺が奴に聞いたが、どうも、ココと向こうの世界は時間流れが違うらしく、そんなに、『時間もたっていない、僕が抜け出した事や抜け出す能力が備わった事も、気づいてないかも知れないです』



 そう言った奴は、先程みたいに糸目を歪ませた訳ではなかったが、なんだか拗ねている様に見えた。




 



『知羽君、なんですよね? 全然違います。

世界が違うとこんなにも違うものなんですね』



 糸目の球体はアパートから綺麗な女性と一緒に出てきたら少女を見てそんな事を呟いていた。




 知羽君?



 あの少女の名前は知羽と言うのか......。




 その少女は少しだけ自信が無さそうだったがいつ見ても一生懸命だった。







 俺も始めは付き合いで、その女の子の観察に付き合っていたが、その女の子は少し弱々しいが、とても優しくて、こそっと観察していた俺だったが、だんだん目が離せなくなってきた。


『運命の調整人の後継者を探しているんですよね? 僕、あの、女の子、良いと思いますよ? 僕、行ってきましょうか?』



 そう言って女の子の前に出て行こうとした糸目の球体を慌てて引き止めた。



 




 ある日の夕方その日は糸目が、丁度いなくて、俺は一人であの女の子のアパートの前にいた。




 階段の上の方から何か重そうなモノを引きずる様な音がする。



 その音は少しずつ近づいてきていた。



 俺は階段の上の方に目線を移すと、そこには大きなゴミ袋を持った、あの女の子が危なっかしく、階段を下りてきていた。




 俺は、下でハラハラとその様子を見守っていた。


 女の子は一歩一歩と階段を慎重に下りてくる。



 自分の身体ぐらいのゴミ袋を抱えているからか、ほとんど前が見えていない様にも見える。






 おい、だ、大丈夫なのか?






 俺自身が下りている様な気分になりながら、口元に力を入れながら俺は女の子を見守った。





 あの女の子を見守る習慣ができていた俺は、あの子は一生懸命すぎて頑張りすぎて、少し危なっかしいと思っていた。




 俺の予想は当たった。




 女の子がもう少しで階段を下り終えようとしたその時、女の子はつまずき、中を舞った。

 


 女の子が地面に投げ出されそうになった時、俺は自然と身体が動いていた。





 女の子を庇う様に、俺は彼女のクッションに

なる様に女の子の下に飛び込んだ。




 普通の犬ならば無傷という訳にはいかないたろう。



 まあ、俺は一応、普通の犬じゃない。



 自分の身体が柔らかくなる様に女の子の身体の負担にならない様にそんな事をイメージしながら女の子の身体を自分の身体で、背で受け止めた。



 俺の上で女の子の熱を感じた。


 ズルズルと、女の子が俺から下りて俺の顔を興味深そうに覗きこみ、キョトンとした顔をした。


 そしてニッコリと笑った。



 なんとか女の子が怪我する事は防げたようだ。


 俺も無傷だった。



 その事をきっかけに......。









 現在、俺はあの女の子の部屋にいる。



 名前は知羽ちゃんと言う。



 細目が呟く様に名前を呼んでいたから、知ってはいたが......。




「チビ。私、チビがだーいすき」



 そう言って知羽ちゃんが抱きついてきた。



「ワンッ」




 そう言って照れくさかった俺は俺を撫でる知羽ちゃんの掌をペロリと舐めた。



 クシャっと顔を緩ませニッコリ笑う知羽ちゃんの顔に俺の心はざわついた。




 俺は自分の気持ちを誤魔化す様に、何も考えていねーよーな、バカ犬のフリをした。




 俺の中に生まれたこの小さな思いの種に、蓋をするかの様に、バカ犬のフリをした。





 糸目の球体は調整人のじーさんが迎えに来たのか知らないが、いつの間か居なくなった。

 


 

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