第89話 優君との再会。目を逸らしたかった存在 (知羽 視点)

 



 知羽君はブチちゃんを抱えて走っています。



 知羽君の目を通して私も周りを見る事が出来ます。

 自分自身が走っていると錯覚する様に風を感じます。



 ブチちゃんを抱えている重み柔らかい毛の感触、お肉の厚みと温かさも感じます。





「ニャニャっヌーニャ!」


 何かを訴えてている様にブチちゃんが鳴きました。

 知羽君の胸の中でちょっと太っちょなニャンコのブチちゃんが騒いでいます。


 落ちない様にと知羽君が慌てている事が身体の感覚から伝わりました。


 私自身は知羽君の手を動かす事は出来ないけど、ブチちゃんを落とさない様に思わず手を動かそうとワキワキしてしまった程です。


「大人しくしてくれ、落ちてしまったら大変だ」


 足を止めて知羽君がブチちゃんにぼやきます。


 ワガママボディなニャンコのブチちゃん。

 知羽君もちょっとだけ困っている様でしたが、ブチちゃんが何かを訴えていると気がついたのかブチちゃんを優しく撫でています。


 先程ブチちゃんは、なんて言っていたのでしょう?


 レルちゃんが先程言ったブチちゃんの声を聞いて、フワーと私達の側まで飛んできました。


[ココから茶子おばあちゃんの匂いがするってこの猫ちゃんは言っているワン]


 チビがまたまたブチちゃんの通訳をしてくれました。

 チビはちょっと得意気な口ぶりです。


 役に立てて嬉しいのが伝わってくるかの様に私の胸元にチビのブンブンに振る尻尾が当たっているのが伝わります。


 


 私はなんだか嬉しいなってきましたが本題に戻ります。


 どうやらこの電信柱から茶子おばあちゃんの匂いがするそうです。




『そうね、確かに、ここを通った形跡があるわ。もう、近いのかも。急ぎましょう?』


 レルちゃんがそう言って左の道に方向を変えて飛び始めました。




「レルちゃん、待ってくれよ」


 再びもう一度、荷物を持ちなおすかのように知羽君は優しくブチちゃんを抱え直してから、レルちゃんの後を追って走り出しました。


 チビも一緒に走っている気になっているんだと思います。



 知羽君の中で私の前にいるチビの尻尾がフワフワと私に当たっていてチビの身体が揺れている様にも感じます。




 知羽君の走っている息づかいが感覚から伝わります。

 ブチちゃんも必死なのか、ちょっとだけ、知羽君の胸の中で腕に爪を立てているみたいです。


 私にもちょっとだけブチちゃんの爪の食い込みによる痛みが伝わりますが我慢です。



 チビのハッハッ、ハッハッという息づかい。



 私も知羽君を通じて、また風を感じます。





 レルちゃんが公園の中に入って行きました。



 あそこにもしかしたら茶子おばあちゃんがいるのでしょうか?



「ニャニャっニャニャっニャー!」



 ブチちゃんが公園の奥にあるベンチを見た途端、知羽君の胸の中を飛び出しました!



 ブチちゃんを追い私達も走ります。



 ベンチには背骨が曲がっている小さな背のおばあちゃん、そしてその隣には藍色の光に包まれた女の人が見えます。




 ひょっとしてあのおばあちゃんが茶子おばあちゃん?



 良かった!



 元気そうです。



【ゆ、優ちゃん! どどういう事だ。優ちゃん、何故、霊体になっているんだ! 優ちゃんの斜め前にいる人あのオーラは死神さんじゃないのか? 俺がいない間に何があったというんだ!】



 突然、知羽君が取り乱し、彼の心の声が頭に響いてきました。


 その心の声を聞き私も注意深く、小さいおばあさんと藍色の光の透明な人の更に奥の方に目を凝らしました。



 そこには数人の霊体? 心の姿? が居て。


 私が知っている人、私が大事に思っている人もいました。


 確か死神のムクさんと、何故か心の姿の優君。そしてどうしているのか分からないけど、心の姿の優さん。


 一人は白い着物を着ている知らない人。



 そして、私は目を逸らしたかったけど、その白い着物を着た人が胸の中に抱えていた女の子から目が離せませんでした。


 その女の子は現実世界で、図書室の中でなんだか親密そうに優君に手紙を渡していた張本人でした。



 彼女はこの世界の彼女なんだろうけど、どうして?



 どうしてあの子がいるの?



 私は急に不安でいっぱいになってしまいました。

 




 

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