第88話 藍色の光 儚げなカノジョ(優 視点)

 知羽ちゃんの所に一刻も早く駆けつけたかった。


 心の姿と言っても、感覚はある。

 頬や肩、指先、髪に当たる風は痛く冷たい。


 優ちゃんの中に入っていた時よりも鮮明だ。


 飛ぶ事によって風圧を身体に受ける。

 周りを女性に囲まれているというのもあって、髪の毛から良い香りが漂っている様な錯覚も受ける。


 まあ、知羽ちゃんとは違うから、良い匂いがした様な気がしたとしても、俺は取り乱したりはしないんだけど。


 優ちゃんと可奈子ちゃんはスカートだ。


 ムクさんはズボン。可奈子ちゃんの守護霊様は白い着物の様なものを着ていた。


 俺は心の姿になる前の知羽ちゃんと散歩した時と同じ格好だ。


 だけど心の姿は本人が思っているイメージに関係しているからか、実際その服を着ているという訳ではないのかもしれない。


 優ちゃんや可奈子ちゃんのスカートも多分この風圧だと舞い上がってしまって大変な事になるだろうけど、そんな事もない。




 飛ぶ事も始めの時よりはバランスもとれてきて上手く飛べる様にはなってきたがやはり不安もつきまとう。




 知羽ちゃんの元に一人でも飛んで行きたい程心配だったが、ここはパラレルワールドだ。




 迷子になってしまって元の世界に戻れなくなってしまう可能性もある。




 俺は心は落ち着かず、もどかしい気持ちだったけど、茶子おばあちゃんという人を皆と一緒に探しに行く事にした。




 もちろん、知羽ちゃんの事が心配でたまらなかったが、無力な俺が一人でなんとか、かけつけた所で何かできる訳でもない。




 知羽ちゃんも茶子おばあちゃんと言う人を探しているらしいから茶子おばあちゃんの所に行けば合流できるかもしれない。




 そんな風にモヤモヤした気持ちで皆と一緒に飛んでいた。




 そんな時、飛んでいた皆の動きが止まった。



 不思議に思った俺は目線を下に下げた。






 もしかして、あのちっちゃいおばあちゃんだろうか?




 ある公園のベンチにその小柄で腰が曲がったお年寄りが座っている様だった。




 しかし、なんだか不思議な光景だった。





 そのお年寄りの隣に不思議な冷たいと言う表現が合う様なそんな藍色の光がポワポワとあった。





 それはとても冷たく感じたが、藍色の光が少しずつ温かい光に変化している様に見えた。





 そのおばあちゃんを見つけたとたん、可奈子ちゃんと可奈子ちゃんの守護霊ちゃんが騒ぎ出した。




「良かった! 茶子おばあちゃん居た! どこも怪我をしてなさそう! もう、ふらふらと危なそうに歩くのに、どうして一人でこんな所まで散歩に出たんだろう? お母さんは何してたのかしら!」


 可奈子ちゃんの声が一番うるさかった。


「可奈子ちゃん、落ち着くデシ、あんまり動くと危ないデシ」


「な、なに? 私は落ち着いているわよ。アナタは奈々子なの? どう言う事? コレは私の夢の中なの? そんな言葉使いして、私をからかっているの?」


 可奈子ちゃんの声がうるさすぎる。


 緊迫した状況の様なのに彼女の興奮状態に、俺は少し冷静になれた。



 やはりあの人が茶子おばあちゃんなんだな?



 茶子おばあちゃんは無事みたいだ。


 だけど、なんだ?




 あの茶子おばあちゃんの隣の藍色の光。




 俺はその光を目をこらしてジッと見つめた。


 するとボンヤリと人の形が浮かび上がってきた。



 その人はゆらゆら揺れていて透き通っている様にみえる。



 なんだろう、その透明な人。



 女の人?



 制服を着ている?





 なんだか身体が濡れている?



 警戒しながらゆっくりと俺達は茶子おばあちゃんと彼女に近づいた。



 可奈子ちゃんの口は彼女の守護霊様らしい女の子に片手で塞がれている。

 可奈子ちゃんをなだめるように優しい言葉をかけていて、可奈子ちゃんは少しだけ大人しくなった。


 優ちゃんは戸惑う様に俺達よりも少し後ろにいた。

 だけど、戸惑いながらも、表情は今までよりも明るく、心なしか嬉しそうにも見えた。



『あの子、事故で亡くなったみたいだけど、この地に未練があり過ぎて動けなくなっているみたいね』


 ムクさんの言葉に俺は耳を疑った。



 あの人、透明だと思ってはいたけど、幽霊か?



 その時、その幽霊な彼女が振り返った。



 目が合った俺はなんとなく身体が凍りついた様に上手く動かせなかった。



 驚くほど綺麗で美人な彼女はこの世に存在していない。


 諦めたように儚げに笑う彼女はゾクッと背筋が冷たくなるくらいキレイだった。

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