第86話 なんだか温かい私の滴 (女学生の幽霊 視点)


 永遠に時間が終わらない。


 目の前の空間が永遠と繰り返される。



 何秒、何分、何時間、何日、何ヶ月、何年。



 どれくらい長い時間。



 私はこの気持ちに囚われているのだろう。



 身体中、凍っている様な、心も全て、泥に埋まってしまっている様な全てが黒く埋めつくされた様な感じ。



 私はどうしてココに立っている?




 全身ずぶ濡れで、心までも真っ黒になったまま。



 私だけが時間が止まっているかの様に、この地には何人も立ち代わり訪れている人はいる。


 春、夏、秋、冬、季節が変わるたび時が流れる度に木や葉は色を変える。



 だけど私は変わらない。


 むしろ時間が多く流れるほどに、少しだけでもあった記憶が薄れていく。



 顔も真っ青、いや、真っ黒なのだろうか?

 表情もなくなって能面の様だろう。




 もう、どれくらい笑ってない?




 



 この公園は年齢層も様々で、子供連れの親子だったり、犬を連れてお散歩している人。主婦が近道に使っているなんて事もある。


 そんな風に様々な人達が訪れている。



 笑っている人達、時には泣いている人達。


 皆には時間が流れている。




 私と違って。




 彼らや彼女達は私が視界には入らない。




 私の事が見えない。



 




 寂しい。



 寂しい。



 怖い。



 寂しい。



 この負の感情がある内はまだ私は化け物じゃない。



 私もそのうち、何も感じる事のない、化け物。

 悲しい、切ない。


 そんな存在になってしまうのだろうか?




 私が、こんな風に時間が止まってしまう前、皆と同じ様に生きていた時、自分が間違っていない選択をとっていれば、こんな事にはならなかったのか。




 だけど、今更考えた所で戻れない。


 私の時間は......。

 


 長い間、時間は止まったまま。


 この泥の様な真っ黒な闇の中で感情も記憶も止まってしまった私に、前に進める事なんてあるのだろうか?




 私の事が見えない彼らの周りには、彼らを守る、そんな存在がいる。




 守護霊様、妖精さん、死神様。



 他にも色々な役割の方達がいる。




 私も、生きている時に、逝く方向を間違えなければ、彼らの様に、誰かの事を守る仕事をしていたのかもしれない。




 少なくとも、こんな風に、孤独に永遠に同じ時を繰り返すなんて事は無かった筈だ。




 彼らは私の事が見える。





 だけど、彼らは忙しい。



 それに、私に関わる事で、彼らが守る大事な人達にも影響が出る可能性がある。




 だから彼らは私を見ないフリをする。




 私の事は見ないけど、見えてないフリをするけど、時おり『可哀想に』そんな目線を向けてくるものもいる。



 同情をされる。




 それほどやるせない事はない。




 私はこんな思いをするほど、生きている時、罪を犯したのだろうか?





 そんな私に今日はあり得ない変化が起こった。




 私を見える。




 そんな人間が目の前にやってきた。



 小さな身体。腰が曲がってしまっている、おばあさん。



 歩くのが不自由なのか、ゆっくりゆっくり歩くおばあさん。


 おばあさんは私を見て優しく笑った。




『おばあさん。優しそうなおばあさん......』



 久しぶりに本当、何年、何十年ぶりに声を出しただろう。



 掠れて上手く音になっていない。



 やっと私の声を聞いてくれる人が現れたのに。



 やっと私の事を気にしてくれる人が現れたのに......。




『おばあさん、私が、見える? 見えるの?』




 私の目から流れた涙。



 それは何だか少しだけ、熱を持っている様に温かく感じた。




 

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