第85話 知羽ちゃんの所に行きたい。もどかしい俺の心(優 視点)
可奈子さんの様子がおかしいとは思っていたが、それよりも知羽ちゃんだ。
「ムクさん、知羽ちゃんはまだ見つからないの? 心の移動だし、空からの移動だから早く辿りつけるよね?」
俺の言葉にムクさんが少し困った様に振り返った。
『知羽君(知羽ちゃん)は近くにいるみたいなんだけどね、知羽君達は今、そこにいる可奈子さんのおばあさんの茶子さんを探しているみたいなの』
ムクさんの言葉を聞き、可奈子さんが、可奈子さんの守護霊さんにつかまったまま驚いた様にこちらを向いた。
「どういう事? 今、私の事、言ってた? 茶子おばあちゃん? 私のおばあちゃんがどうしたの?」
そう叫びながらも、また下を見たのか可奈子さんはよほど怖かったのだろう。
顔も一気に青ざめ、再び自分の守護霊さんにしがみつく。
「なにー! 夢じゃ無いの? 怖すぎるんだけど、でも私のおばあちゃんがどうかしたの? 知羽君って松川君の事? って言うか貴方達、誰なのよ? や、やっぱりこれは私の夢? にしては感覚、リアルすぎるんだけど!」
空の上で可奈子さんの声はうるさいぐらい響いた。
俺は、思わず耳を押さえる。
と言っても俺達、今は身体がないから耳を塞いでも意味がないのかも知れないけど……。
『知羽君の所に合流した方が良いかしら? それとも知羽君達が探している茶子おばあちゃんの方に向かった方が良いかしら』
「もちろん、知羽ち」
「茶子おばあちゃん、何かあったの!? な、何? なんだか分からないけど松川君なんてどうでも良いでしょう? おばあちゃんの方に向かってよ」
ムクさんの言葉に俺が答えようとしたら、言葉だけすごい勢いの可奈子さんの言葉に遮られた。
鬼気迫る感じだ。
だけど空の上なのが怖いのか、自分の守護霊さんに捕まって叫んでいるから、鬼気迫ると言っても、そんなに迫力はない。
だけど、俺は早く知羽ちゃんの顔を見て安心したい。けど、知羽ちゃんはその茶子おばあさんて人を探しているのか......。
しかも茶子おばあちゃんて人は可奈子さんの身内なのか......。
「ムクさん、知羽ちゃんは今は無事なの? 転んで怪我したりしてない?」
知羽ちゃんが怪我していたり、もし泣いたりしているなら俺の優先順位は誰がなんと言っても知羽ちゃん一択しかないからな。
「知羽君はそんなにそそっかしくはないわ。まあ、転んでいるかもしれないけど」
優さんが平然と飛びながらそう言った。
そ、そうかもしれないけど、心配なんだよ。
『私からもお願いするデシ。
茶子婆ちゃんは、高齢デシ。
チャキチャキ歩けないデシ。
本当に転んだだけで大怪我なんデシ。
いつもは心配ないデシ。
私のお師匠様が側にいるから。
だけど今は違うんデシ。
とにかく、こっちの方が先なんデシ。
お願いなんデシ』
可奈子さんの守護霊さんが余りに真剣に頼むから俺も困って黙り込んでしまった。
『知羽君達もすぐに来るわ。まずは一足先に私達が茶子おばあちゃんの元に行きましょう?』
ムクさんの言葉に自分だけでも知羽ちゃんの方に向かって飛びだしたい気持ちをなんとか押さえて、俺は黙ってムクさんの後ろを飛んだ。
分かっているけど、
知羽ちゃん、まだ顔を見なくなってそんなに経っている訳じゃないのに、別の世界に来ているからかな?
顔が見えてないと不安で仕方ない。
この心の旅はいつまで続くんだ?
どうやったら終わりなんだ?
どこまで戻ってやり直したら、あの平凡な日常に戻れるんだ?
と言っても戻れるすべなんて分からないけど......。
この旅で知羽ちゃんに少しでも近づけたら......。
そんな風に考えたりしたけど、むしろ遠ざかっている気がしてならない。
うーん。
だけど、今の俺は思う。
自分の世界にもし戻ったら、戻れたら、絶対教室でも知羽ちゃんに話しかけてやる。
周りなんかしるか。
知羽ちゃんが注目されるのは面白くないけど、離れている間に中の良い奴ができてしまったら、たまったもんじゃない。
あー、時間がもったいない。
知羽ちゃんの気持ちが少しでも、俺の方を向く様に、
他に行かない様に、
ココでも、帰れてからも、
俺、頑張る。
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