第83話 目の前に居る。会えなくなってしまった片割れ(可奈子 視点)
まだ頭がボーとしている。
ゆっくりと目を開ける。
頭がハッキリとしていないのか、視界がぼやけている。
だけど、誰かに抱き抱えられているのが分かった。
何故だか謎の浮遊感と言うか不安定さがあり、顔にすごいスピードの風が当たっている。
その風の早さや冷たさで一気に頭が冴えてきた。
私を抱き抱えているその胸の中と言うか腕の中は、たくましいと言う感じではなかった。
目に入った私を抱えている腕の細さに少しドキドキしてしまった。
なんだか記憶が曖昧だけど、頭に残っている記憶、一番新しい記憶は、最後に会った人は、私の密かに憧れている美少女、笹山 優さんだった。
もしかして、私を抱き抱えているこの細い腕は笹山さん?
ジェットコースターの様な体感速度、風圧に、非現実すぎて、夢の中かと私は思っていた。
気になっている笹山さんに抱き抱えられる夢なんてなんて素敵な夢なの。
私はまだ周りを見てないうちから夢見心地だった。
ん?
私は数回瞬きをした後、目を見開いた。
な、何?
ど、どういうこと?
わ、私、空の上にいるーーーーーー!
「な、何、ココ! 何処?! お、落ちる! ゆ、夢にしたら風も凄いし、スピード感が、わ、私、高所恐怖症なのよ! お、落ちる!」
そう言いながら私は声にならない悲鳴を上げ私を抱き抱えているその小さな存在にしがみついた。
「可奈子ちゃん、大丈夫デシか?」
耳元ですごく懐かしい声がした。
個性的な語尾。
それも私は覚えていた。
私の、無くしてしまった生涯では一人しかいない大事な片割れ。
幼い頃、その大事な片割れが急に居なくなってしまった。
お母さんやお父さん、おばあちゃんは、奈々子ちゃんはお空に行っちゃたのよ?
そう言われても私は全然納得いかなかった。
『何言ってるデシか』
頭の中の記憶。
奈々子ちゃんと私、あの頃ハマっていたアニメの大好きなキャラ。
その語尾を真似して、二人ではしゃいでいた。
「可奈子ちゃん、大丈夫デシか?」
これは夢? 夢よね?
声に引き寄せられる様に顔を上げた。
歳は私と同じぐらいの少女。
だけど、面影は私が幼い頃、ずっと隣で見てきた奈々子ちゃん、そのままで。
私と一緒に、ずっと隣で一緒に歳を重ねていったらこういう見た目に成長したのではないか?
そう言い切れる見た目をしていた。
心配そうに、ハの字の眉毛になっている。
声のトーンも、心地良い。
幼い頃何度も聞いた。
びっくりしすぎて何か喋ろうとしても上手く声がでない。
信じられない。
もし、夢なら、声を発した途端、奈々子ちゃんは目の前から消えてしまって、きっと気怠い朝が始まるんだ。
私は、空の上にいるという不思議な状況、会いたくても会えない、死んでしまった双子の妹が目の前に居る。
そのあり得ない状況に、驚きを隠せなかった。
だけど、夢でも会えた事で胸いっぱいになってしまい、少しでもこの時間が続けば良い、そう思わずにはいられなかった。
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