第81話 私も、私も力になりたい (茶子おばあちゃん 視点)
陽は高く、ジリジリと暑い。
だけど濡れている女学生の制服は肌に貼り付いていて気持ち悪そうだ。
髪から滴がポタリポタリと垂れているのが目に入った。
「寒くないかい?」
怯えている女の子になるべく優しいトーンで声をかけた。
私も家族以外に話しかけたのは久しぶりじゃ。
少し声が震えてしまったよ。
そして私の言葉に女の子は思い出したように、震え出した。
細い身体を自分の両手で交差する様に掴み女の子は震えていた。
女の子は目鼻立ちも整っていて、余計に痛々しく見えた。
『さ、寒い。寒くてたまらない……』
女の子の声は本当に寒そうで、震えていた。
遠くなってしまっている私の耳には聞こえない程の小さな声。
だけど、私の胸に刺さる様にはっきりと聞こえたんじゃ。
その声は本当に痛々しくて胸が痛くなる程じゃった。
そりゃ、こんなに濡れてしまっていたら寒いじゃろの。
こんな所で脱ぐ訳にもいかんし。
せめて髪の毛から流れる雫だけでも拭いてあげたい。
そう思った私は先程、女の子から受け取ってもらえなかったハンカチで少女の髪から流れる雫を拭こうとしたが、どんなに手を伸ばしても女の子の髪の毛に触れることが出来ない。
女の子に触れそうになった時、なんだか何かに触れた様なゾクっする感覚はあった。
だけど女の子の髪に触れることはなく自分の腕はスカッと下に落ちた。
その現状を見て女の子の色白い肌がさらに青くなり、女の子は静かに涙を流した。
その姿を見て、私はやはり......。
そう思った。
この世の方ではないんじゃな……。
私は分かっていたことだが少し悲しくなった。
「ごめんね、泣かないでおくれ」
困ったようにおろおろする私を見て女の子は涙を止めた。
『違うの。私の事を気にしてくれる人、久しぶりだったから。見て、認識してくれるのも、久しぶりだったから......。分かっていたのに、もしかして触れる事もできるかもと思ってしまったの』
女の子の声は消えてしまいそうな程、震えており、掠れていた。
久しぶりに声を発した。という様な弱弱しい声だった。
よく浮遊霊に弱いところを見せてはいけない。
そんな所を見せてしまえば、付け込まれる。
そんな風に言われたりするが……。
今まで霊感ゼロだった私は、幽霊というモノを見たのは初めてじゃった。
確かに浮遊霊の方達の中には困ったお方もおるかもしれん。
それは皆、亡くなる前、色んな思いを抱えておったじゃろし、悔しかった事や無念に思った事いっぱい、いっぱいあったんじゃろうしな。
死んでからの世界がどんなモノかは私には分からんが、この世の者も連れて行きたくなるほどの寂しく辛い毎日なのかもしれん。
この少女もそうかも知れん。
じゃが、じゃが。
この弱々しいこの子が、どうしてもそんな悪さをする様には到底見えない。
私の様なものの力で、成仏なんて無理な事は分かっている。
じゃが、少しでも、この少女の心を軽くする事はできないか。
何か私にも出来る事があるんじゃないか、そう思ったんじゃ。
最近は自分の役割がすっかりなくなってしまった。
こんな私でも、こんな風にヨボヨボになってしまっても、誰かの役に立ちたい。
そう思ったんじゃ。
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