第80話 私は寂しかったんじゃな (茶子おばあちゃん 視点)


『おばあさん、私が見える? 見えるの?』



 そう呟いた女学生。

 

 青白く、今にも消えてしまいそうじゃな。


 声もか細い。


 身体も細いな。


 セーラ服が、濡れたセーラ服が身体に張り付いていて、細さが丸わかりじゃ。



 まあ私も細いがな。


 女学生の腕を見た後、自分の腕も見た。

 袖がある服を着ているから腕は隠れているが、私の腕は筋筋じゃ。


 じゃが私の細いとはまた違うんじゃ。


 消えてしまいそうに細いんじゃ。






 

 私はなんだか分かってしまったよ。



 


 

 だけど分からないふりをしてゆっくりと女学生の前まで歩いた。



 

 そして無表情のまま、一粒の涙を流す女学生の隣にゆっくり立った。



 


 


 

 先程も言ったが女学生はびしょ濡れだ。



 


 

 だけど、ベンチはちっとも濡れていない。



 


 

 ベンチは日の光に照らされて熱いぐらいじゃ。



 


 

 私がゆっくり腰かける所を女学生は注意深く見ている。



 


 

 私は、動作の、一つ一つがゆっくりじゃ。



 

 転んでしまっては骨なんかあっという間にやられてしまう。


 なるべくカルシウムを取る様にしていても、年には勝てん。



 

 まあ、お迎えも早くなって良いのかもしれんが……。



 

 そんな風に思ったりもするが、やはり孫や娘の事も心配じゃ、そこは矛盾している。


 まだまだ死ぬ訳にはいかん。



 

 私はシルバーカーの持ち手部分とベンチの肘掛けを持ちながらゆっくり女学生の隣に腰かける。



 


 

 腰かける時、ちょっとふらつきそうになったりしたのだが、その女学生、女の子は心配そうに私を見ているのが分かった。



 

 無表情だけど、なんとなく焦っている感じが伝わった。



 

 優しい子じゃな。


 他人の私の事を心配してくれるのじゃな。



 


 

 不思議な感じじゃな。

 女の子には影が無い。



 


 

 顔も身体の色も、血の気が無いように青白い。



 


 

 幽霊。



 


 


 


 

 そう言えば簡単じゃな。



 


 


 


 

 じゃが私は、この世のお方かどうかは分からんが、この優しいお嬢さんと話がしてみたくなった。



「お嬢さんはここら辺の方かね? 寒くないかい」



 私は女の子を怖がらせない為、なるべくゆっくりと優しく声をかけ、シルバーカーから取り出したハンカチを渡そうとした。



 女の子は少しだけ表情を変え、困った顔でこちらを見ている。

 

 私が声をかけてきたからびっくりしたのか涙も止まっていた。




 女の子は影もない。


 幽霊、もしくは人間ではない。




 だけど、私は何故、『怖がらせない様に』そう思ったんじゃろね。



 じゃけどな。



 この子。



 この女学生は。




 なんだかすごく怯えている。




 ここから動けず、ずっと怯えている。




 なんだか分からないが私はそう思ったんじゃ。









 それに、私は、最近、家の中でずっと肩身が狭かった。



 娘から叱られたからとか、そう言うんではなくて。



 娘も婿さんも、なんだか仕事が忙しそうで、孫達との会話も徐々に減ってきていて、友達もどんどんあの世にいってしまって......。



 私も寂しかったんじゃな。




 この子と会話をしながら、私はそう思った。

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