第79話 泣いている女学生 (茶子おばあちゃん  視点)

 ちょっと、うとうとしてしまったね。






 太陽の光が眩しくて目を細めた私は、公園のベンチに座って居眠りをしていた。



 ぼんやりとした頭で、隣のベンチに目を向けると先程、池の側に立っていた、女学生が、そのベンチに腰かけ泣いていた。



 なんだか顔は無表情で、だけど涙だけが、止めどなく流れている。







 見てて、こちらも切なくなる。



 何があったのかね......。




 学校で嫌な事でもあったのかね?




 私は通りすがりの他人じゃし、私なんかに話しても仕方がない事かもしれんしな。




 そっとしとくべきなんかね。






 だけど、私にも孫がいる。




 もし、孫が辛い思いをしていたら、そう思うといてもたってもいられなくなった。





 私は女学生の元に行こうと、ベンチの肘掛けとシルバーカーの持ち手部分を持ち、心の中でよっこらしょと声かけをしながら立ち上がった。




 アイタタタッ。




 やはり、長く座ると腰が痛いね。




 立ち上がるのも、ゆっくりじゃないといけないけど、勢いをつけないと上手く立ち上がれないしね。




 あのお嬢ちゃんにも『上品なおばあさんから優しく声をかけてもらった』そんな風に思われたいもんだけど、着の身着のまま出てきてしまったみたいだし、そんな風には思ってもらえないね。







 私はシルバーカーを頼りに女学生が泣いている隣のベンチまで、ゆっくりと歩き出した。






 せめて転ぶのだけは避けたいからね。


 泣いているお嬢ちゃんに迷惑かけないようにしないと。




 ゆっくりゆっくり。




 私は歩き始めは足元が少し不安定だった。


 躓きそうになるのをなんとか持ち堪え、一歩一歩と前に足を出す。

 


 ゆっくり歩いた為、少し時間はかかったが、なんとか隣にあったベンチにたどり着けた。




 女学生の涙は止まっており、ぼんやりとこちらを見ている。




 生気のない顔。



 青白く、消えてしまいそうな顔だった。




 なんだろう。



 


 先程まで、普通の女学生が泣いている様に見えたのだが、その女学生の身体に、モヤがかかっている様に見えた。


 私の目がおかしくなってしまったのかね?



 さっきまで、居眠りしていたから頭がまだ寝ぼけているのかね?



 何回も瞬きを繰り返して、もう一度女学生を見た。






 髪も身体も制服も、びしょ濡れな女学生。




 よく見ると裸足だった。




 肌も制服にも泥がついた様に汚れている。





『おばあさん。優しそうなおばあさん......』





 女学生の消え入りそうな掠れた声。




 なんだか背筋がツーンと冷たく感じた。



 ゾクゾクと鳥肌も立ち始め、寒くなってきた。




『おばあさん、私が、見える? 見えるの?』







 そう呟いた女学生は無表情のまま、一粒涙を流した。








 私はすぐに返事が出来なかった。








 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る