第77話 気のせいかね? (茶子おばあちゃん 視点)
今日は何だかおかしな日だね。
外はこんなに良い天気なのに。
日の光に目眩をおこしてしまいそうだね。
シルバーカーを頼りに一歩一歩前に歩く。
腰が曲がっているせいか、立ち止まり上を見上げないと空を見る事は出来ない。
調子に乗って見上げ過ぎるとバランスを崩して転んでしまう可能性もある。
私は自分の身体と相談しながら、ゆっくりゆっくり歩いていた。
秀子。
今日は何故、あんなに怒っていたんだろね。
でも、きっと私が悪いんだろうね。
最近、物忘れが酷くなってきたよ。
葉助さん。
アナタと昔、こうして散歩しましたね。
アナタがこんなに早く遠くに行ってしまうなんて、私は考えてもいなかったよ。
葉助さん。
私達の娘の秀子はもう、子供が二人も居るんですよ。
何処かで見てて下さっていますか?
それにしても、秀子、あんなに怒るなんて......。
私の所為かもしれないけど、もしかしてどこか、身体の調子が悪いのかね。
何か心にため込んだり気を使わせたりしてしまってたんだろうか?
道路は歩道もちゃんとあるけど、少しデコボコしている。
身体が曲がっていて、足元が不安定な私にはちょっとしんどかった。
少し立ち止まり、早くなってきた呼吸を整えた。
シルバーカーを持つ手に力を入れて、少しだけ身体を預け、ちょっとだけシルバーカーに寄りかかる。
と言っても、思いっきり寄りかかると、もちろん前に転んでしまうから、本当にちょっとだけだ。
それにしても、ココは、家の近所なんだよね?
見た事がある景色だし。
昔は道を覚えるのも得意だったし、歩くのも、何処までも歩けたもんだ。
葉助さんが早くに逝ってしまったから、色々あった。
だけど、だけどね......。
最近はちょっと、ちょっとだけ、しんどかった。
葉助さん。
早く迎えに、来て下さいな。
そう思ってしまう日も増えてきてしまったよ。
はー。
なんとか小さな公園までたどり着いた私はベンチに腰かけてシルバーカーを目の前まで寄せた。
私のシルバーカーはちょっとだけ腰かけれるスペースがあって、その蓋を開けると少し物も入れる事ができる。
その蓋を開け、水筒を取り出してお茶を飲み喉の渇きを潤した。
シルバーカーに腰かけれるスペースがあるといっても、私ぐらい腰が曲がっていると、実際そこに座るとシルバーカーと一緒に転んでしまう恐れがあるから、絶対座っちゃ駄目だと、秀子に言われていた。
だから、やはり、こうして座れる所があると本当にありがたい。
さてさてと。
ここは何処かね。
誰かに聞きたいけど、周りに人は、いないねー。
ベンチから見える目の前の池にチャポンっと何か投げ入れる音がした。
誰もいない。
そう思っていたら、その池の側にはセーラー服をきたお嬢さんが立っていた。
へー、今時の若者にしては三つ編みのおさげ姿とは清楚なお嬢さんだね。
懐かしいね。
私の若い頃も良く三つ編みをして......。
と言っても私は、セーラー服は着た事がない。
妹達や弟達は皆、上の学校まで行かせたが、私は小学校までしか出てない。
あの時は、そんな事も当たり前だったしね。
しかし、あの子、あんな池の近くに立って、危なくないのかね?
そんな風に思っていたが、お茶をもう一度飲んで、再び、池の方に目線を向けたら、もう誰も居なかった。
ありゃ?
近頃の子は足がかなり早いね。
なんだか背筋が寒い気がしたが、歩き疲れていた私はまだ、立ち上がる事も出来なかった。
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