第73話 ムクさんを先頭に。(優 視点)



 送っていく。そう言った女の子の勢いは凄かった。



 優さんも勢いに飲まれて上手く言い返せないみたいだ。



 俺も、やはり先ほど、どうして一瞬だけでも優さんの身体が動かせたのかは分からないが、現在は、指一本さえ動かす事は出来ない。



 だけど優さんの戸惑いは伝わってきた。



 俺だったら冷たいかもしれないけど、しっかり断るのに、もう、なんかモヤモヤすんな。


 もどかしい。


 こんな女の子置いて、走り出したいのに、身体が思う様に動かない。



 そりゃそうだよ。


 これは優さんの身体だ。俺の身体じゃない。



「笹山さんのランドセル、持ってこなくちゃね。私のも。だけど、あっ、ちょっとそこの壁に寄りかかる?」



 女の子の勢いはすごい。


 名前は先程勝手に自己紹介をしていたが可奈子というらしい。

 いきなり名前で呼ぶのもどうかと思った優さんが苗字を聞いていたが、名前で呼んでと笑顔で押し切られてしまった。


 ランドセルを取りに行くって、そんなの待っている暇ないよ。


『そうね。そんな暇はなさそうね。まあ、今回だけは特例ね』


 そうムクさんが言うと、優さんの身体からムクさんだけが頭から抜け出ていくのを感じた。


 それと同時に一瞬で空間が暗くなったと思った瞬間、目の前で喋っていた可奈子さん? の身体の力が抜けた。


 優さんが慌てて支える。


 目の前に現れた、ムクさんに、優さんは可奈子さんを支えたまま固まった。



【な、何? 幽霊? 知羽君は不思議なモノが、見えている様だったけど私にはそんな力は無かった筈よ? ど、どういう事なの?】



 優さんの戸惑っている声が頭の中に響く。


 ムクさん、いいの?


 優さんの前にも顔出しちゃまずいんじゃなかったっけ?



『そうなんだけど、時間がないし、どうもこの可奈子さん、何の縁か分からないけど、この子の守護霊が慌ててる。今回の知羽君が関わっている事と関係してそうなのよ。


って、そんなに睨まないでよ。可奈子? さんは眠っているだけよ』



 俺に説明しているムクさんが、倒れている可奈子の頭の上を見ながらそう言った。


 目の錯覚かと思ったが可奈子さんの頭の上から、ボンヤリと上半身だけ人物が浮かび上がってきた。


 半分まで見えている勝気そうな、その霊? らしきモノ。



 同い年ぐらいの女の子に見えた。


 俺まで幽霊が見えるのか?

『その方は可奈子さんの守護霊さんよ、子供に見えるでしょうけど、力はちゃんとある様よ』


 

【もう、私にも分るように言ってよ。一体、何なの? 可奈子さん。大丈夫? これ、アナタ、優君? の仕業なの?】


 俺とムクさんが会話して話を進めているからか、優さんが不満そうだ。


俺が優さんの質問に答える前に、目の前にいるムクさんが、ユラユラと動きだした。


 そして、うろたえている優さんと、眠っている可奈子さんを包み込んだ。



 そうして、また暗闇に包まれた。


 俺自身も真っ暗になり何も見えなくなった。



 ムクさん、何、したんだ?





※※※※※※




 気がついた場所は学校の外。



 俺達はまたプカプカと空の上に浮かんでいた。


 間近に青空や雲が見える。

 隣には優さん、可奈子さんもいる。


 優さんはびっくりしながらも興味深々に周りを見渡している。



 可奈子さんはこんなの何かのインチキよ。

 とでも言いだしそうだがまだ心も眠っている様だ。守護霊さんらしい、子供の見た目の幽霊さんが抱えている。



「おいおい、俺だけじゃなくて、二人まで心の姿にしたのか? ムクさん。優さんや可奈子さんの身体はどうしたんだよ」


 と言いつつ、俺は少し嬉しかった。


 久しぶりに自分の姿になれた。


 霊体だけど......。


 思う様に動けないのはやっぱり少し辛い。






「それより知羽ちゃん。


知羽ちゃんだよ。


大変な事になっているんだろう?」



『今、私達は知羽君のいる所に向かっているわ。


仕方ないのよ、二人に説明してる暇もなかったし、私はムク本体じゃないから何人も連れて移動なんて心、魂じゃないと無理だったのよ。


心配させない様に二人の身体は保健室の扉の前に置いてきたし、眠っているだけだから、そんなに大事にはならないでしょう』



 ムクさんはもう開き直っている様だ。


 


 俺達はムクさんを先頭に飛んでいた。


 まあ、身体の方も、保健室前なら先生に発見されてベッドに運んで貰えるだろう。



 親を呼ばれるのは避けられないな。



 だけど、これで知羽ちゃんの所に駆けつける事ができる。



 余計なおまけまで、着いてきちゃったけど......。


 俺は守護霊さんには見えない、子供っぽい霊体に抱えられている可奈子さんを見ながら小さく溜息をついたが、気持ちを切り替えてムクさんに着いて飛んだ。



 飛び方も慣れてきたと思う。


 優さんは意外にも、こんなに高いのに、怖くない様だ。





 知羽ちゃん、もうちょっと待ってくれ。


 今、今から行くから。


 飛んで行くから。



 何があったか分からないけど、お願いだ。






 無事でいてくれ。

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