第70話 手紙の女の子。知羽ちゃんが心配なのに、もどかしい。 (優 視点)

 声を上げそうになっていた女の子は、何とか落ち着いたみたいだが、どうして優さんが、授業中にこんな所にいるのか気になっているようだった。


 

 顔を赤くしながら興味しんしんな表情で、こちらを見ている。



 


 優さん、聞こえる?



 貰った手紙の内容って、どんなのだったんだ?

 俺も自分の世界で、あの女の子に手紙を貰ったんだ。

 

【えっ? そ、そうなの? 私の方は......。それよりも知羽君の事は良いの? なんだか私も心配になってきてしまったんだけど......】



 俺だって心配さ、でもこのままこの子を置いて優さん(俺)が走り出したとしたら、この子に何言われるか分からない。




 俺の貰った手紙の内容と、優さんが貰った手紙の内容が、一緒かどうかは分からないけど、俺に手紙をくれた、俺の世界のあの子は、ちょっと得体が知れないと言うか、何か企んでいる様に感じたんだ。


 一度、俺の心の声で聞いたかもしれないけど......。

 俺が貰った手紙は簡単に言うと、自分の幼なじみに友達がいないから(その女の子の幼なじみの事だと思うんだけど)そいつと友達になって欲しいなんて、そんな内容だったんだよ。


 だけど、それにしてはなんだか他の話題が、その幼なじみの内容ではなくて、自分の事ばかり書いてあって、ちょっと失礼だけど、何が言いたいんだ? コイツって思ったんだよな。



 普通に友達ならそう言う手紙もありだろうけど、ほとんど話した事がないのに、馴れ馴れしいという印象だったんだ。




 うーん、困ったな......。


 


 ああ、もどかしいな、知羽ちゃんの事が心配でたまらないんだ。


 だけど、この子、どういう子か分からないし。



【そうよね、私も心配だわ。知羽君、大丈夫かしら? でも、あの子、そんな悪い子でもない気がするのよ? 私の手紙の内容は】




『......。ちょっと困った事になったみたいね』



 優さんの心の声にかぶせる様に気怠そうに喋る掠れ声が俺の耳に届いた。



 ムクさん。


 ちょっと、優さんの心の声が聞こえなかったぞ?


 手紙の内容はなんだったんだ?




 それにしても、なんだか久しぶりに声を聞いた気がするぞ?


 寝ていたのか?


 




『寝ている訳ないでしょ。


ああ、この事は言っていなかったわね。

実は私達、死神は、実態は一つなんだけど、精神、心は何体も色々な所に飛ばす事ができるの。

だから、実は私は、ムクだけど本体ではなくて、その内の一人なの。


だけど、全部私だから、時々意識が色々な所に飛ぶのよね。



私の中の一人が知羽君達の様子を見に行っているんだけど......。

私達がこちらに来ている事が、きっかけか、いやマルちゃんの事が関係しているのかしら?


分からないけど、困った事態になってしまっているみたいなの。



すぐにでも応援に行きたいのだけど、うーん。



優さんはまだしも、この女の子を巻き込んだらまずいわね......』




 そこまで言って、またムクさんの声が聞こえなくなった。



 その一方で、ムクさんが喋っている間、リアルでは、優さんが女の子と会話しているらしかった。


 優さんが女の子に名演技を見せて、「調子が悪いから早退して学校から家に帰る所」と言った様だ。


 流石、優さん。

 演技も上手いんだな。


 って、そんな言い方すると自分を褒めているみたいだな。


 だけど、この調子なら女の子もすぐ解放してくれるかもしれない。



 折角の優さんの演技が、万が一、俺自身の表情が出てしまって、台無しにしてはいけないと、俺は表情を引き締めた。




 そんな優さんの演技を見て女の子は心配そうにしている。


「笹山さん、良かったら私、家まで送って行きます」


 名演技すぎて女の子がそんな事を言いだしてしまった。




 しまった。



 優さんもどう答えるか、困ってしまっている。





 ムクさんも時おり、声が聞こえてくるが、なんだか慌てているみたいだし......。

 





 困ったな。





 女の子は優さんに気を使って言っているんだろうけど、一刻も早く知羽ちゃんの元にかけつけたい俺は、だんだんイライラしてきた。



 もう、なんでも良いから早くどっかに行ってくれ。


 知羽ちゃんがピンチかも知れないんだ。





 急がないと。





 知羽ちゃん、何があったか分からないけど、すぐ行くから。


 お願いだ。お願いだから無事で居てくれよ!



 

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