第66話 足音 (優 視点)

 どうしよう。


 優さん、携帯がないんじゃ、知羽君(知羽ちゃん)が探せない。


 一度、教室に戻る方が良いだろうか?



【だ、駄目よ。まだ何があったか分からないもの。

教室に戻ったら大騒ぎになっちゃうわ。


もう、なんで私、スマホ置いてきちゃうの?


ちょっと、アナタ、スマホ持ってないの?】



 優さん、もう、普通に俺に話しかけているな。



 え?



 ああ、そうか、俺のスマホ。



 って、俺、意識は優さんの身体と一緒にあるんだ。

 どうやって携帯を取り出すのさ。



 それに心、魂? になってしまっている俺には、形あるスマホを持って移動する事は出来なかったんだよ。



 俺の心の声の返答に、優さんの眉間にシワが寄ったのが分かった俺は、思い出す様に更に続けた。



 あっ、だけど、お爺さん、運爺さんに貰ったスマホなら......。



 優さんの身体の感覚とは別に、俺自身の単体の感覚が、腰にあるズボンのポケット当たりで、ジーンとなんか訴えかけるような痺れた感覚の様なモノがある気がした。




 その時だ。



 カツン カツン。



 足音が聞こえる。



 その音に反応し、ビクッと優さん(俺)の身体は揺れた。




 先生が来たかもしれない!



 優さん(俺)は慌てて、どこかに隠れようと周りを見渡したが、そんな所は何処にもない。



 思わず優さん(俺)は壁の隅に寄った。


 背後には、少し背伸びすれば、またごせる程度の高さの窓があった。



 ココは一階だ。



 ココから出るって手もあるが、優さんは身体も少し弱い、女性だ。



 しかも、この足音が誰か分からないが、先生だったら、そんな所を見られては、それこそ大騒ぎになってしまう。





 どうする。



 どうする。



 多分、先生だよな?



 考えれば考える程、どうしたら良いか、分からなくなってきた。







 もう、いっそのこと堂々と、出て、身体の調子が戻ったから保健室から教室に戻る所と言って、一端、教室に戻るか......。





 だけど、俺の中で妙な焦りがあった。






 優さんも焦っているのか、胸からドキドキする音が響いている。



 脈も早くなってきている。




 カツンカツン、音がさらに大きくなってきている。


 足音が近づいてきているんだ。





 再度、キョロキョロと、周りを見渡すが隠れる場所はないし、下手に走ったら余計に怪しい。




 もちろん、窓をまたごす事は出来なかった。





 優さんが、目の前の窓を開ける。

 入ってきた風が、優さんの髪に当たりサラリと揺れた時、足音がすぐそばまで近づいた。


 優さんは今、その足音に気がついたかの様に落ち着いた様子でクルリと振り返った。





 誰だ?



 先生だと思っていた俺は、冷静さを装っている優さんを見て(表情は大きく動いていないが、心音はかなり早い、優さんが無理をしている感じが分かる)どうするつもりだ? とハラハラしていた。



「きゃー、笹山さん!? なんでこんな所にいるの?」


 そう声を上げたのは、なんだか見覚えのある同級生ぐらいの女の子だった。


 その女の子は、かなり嬉しそうに顔を赤く染め、声を上げており、興奮している様にも見える。


 さらに叫び出しそうな勢いまである。


 

 そんな女の子様子や、声の大きさに、俺も優さんも大慌てし、その女の子と距離をつめて、掌で女の子の口を塞いだ。




「ちょっと黙ってろ」


 俺の、優さんの口から俺の声が自然と出た。




 俺(優さん)の掌に、女の子のカサついたちょっと冷たい唇が当たり、びっくりした俺は『知羽ちゃんの唇はぷっくりしてて柔らかいんだよな』なんて検討違いの妄想をしていた。



 そんな俺だったが、すぐに我に返った。





 ど、どう言う事だ。


 今、優さんが喋ったんだけど、俺が喋ろうと思った事がそのまま声に出たよな?



 お、俺、優さんの身体を乗っとってしまったのか?


 

 そう思ったが、すぐに優さんが主の意識に戻ったようで、女の子が黙ったのを確認した後、女の子の口元から手を離す。


 そして驚いた様に優さんは自分の口元を手で覆った。



 優さん(俺)の手は震えていた。


【ちょっと、勝手に喋らないでよ。私の身体よ? 弱っちい身体だけど、私の大事な身体なのよ】



 そう、優さんが、心で言っている。


 顔が熱い。



 きっと優さんの顔が赤くなっているのだろう。



 目の前の女の子の顔も赤くなっている。




 あっ!




 思い出した。



 こいつ、昨日(もう、色々あり過ぎてすごく前の事の様だが)図書室で変な手紙、渡して来た女だ?!




 もしかして、優さんも、手紙貰ったって言っていたよな? この女からか?




【えっ! アナタも、この女生徒の事を知っているの?! 】




 え?




 性別が違っていても同じ様な事が起こっているのか?



 なんか、あの女の子、緊張しているかの様にモジモジしているな。



 優さんに憧れていたりするのか?



 優さんに手紙の内容を聞かないと、対処しようがないよな?



 知羽ちゃん(知羽君)を早く探さないといけないのに。



 こんな女の子に構っている暇ないのに。



 声を上げられて大騒ぎになっても困るし、どうしよう。



 とにかく、早くどうにかして、知羽ちゃん(知羽君)の所に行かないと、だけど、一癖ありそうなこの女、俺、いや優さんはちゃんと対処、できるのか?




 ああ、知羽ちゃん、大丈夫かな?!



 もうちょっと待ってくれ!




 無事で居てくれよ!?



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る