第63話 急がなきゃっ!?
妖精さんの後を追いかけて、走ります。
知羽君は普段はおっちょこちょいみたいですが、こういう時はまた違う力を発揮するみたいです。
器用に足音をたてずに、階段を駆け下ります。
普段は抜けている様に見えるのに、どちらが本当の知羽君なのでしょうか......。
だけど、いざという時は素早く動けるなんて、格好良いです。
私もそんな風になれるでしょうか?
妖精さんから、さらっと事情を聞いた知羽君は本当に素早かったんです。
こういうのを『憧れる』というのでしょうか?
理想の自分を見ている様でした。
一階まで階段を下りて、少しだけ息を整えた後、知羽君が妖精さんに、軽く合図をします。
妖精さんは教室前の廊下を通ろうとしていましたが、知羽君の合図に気がついて道を変えてくれました。
裏口から外に出ました。
他の人に会う事もなかったです。
妖精さんはまだまだ進みます。
校門を越えても、まだ進みます。
学校を抜け出す形になってしまいましたが大丈夫でしょうか?
知羽君は学校の外に行く事を、誰にも言っていません。
美雪君にも、優さんにさえ言ってないのです。
先生が気がついて、行方不明なんて言われたら大騒ぎです。
お母さんは忙しいのに先生から連絡がいってしまいます。
そう言えば知羽君のお母さんにはまだ会っていません。
私が知羽君の心の中に入ったのは今朝の通学中だったからです。
そもそもお母さんですよね?
まさかお父さんではないですよね?
性別が変わっている人とそうでない人がいるのでややこしいです。
妖精さんを追いかけてまだまだ進みます。
結構早く走っていると思うのですが、知羽君、こういう時は転ばないのですね。
私だったら三回は転びそうになっている、もしくは転んでしまっていると思います。
普段は抜けている様に見えるから、かなりのギャップです。
顔付きも今朝の緩みきっている感じではないです。
また知羽君の心の声が聞こえません。
無心で走っているのでしょうか?
スピードを出して飛んでいた妖精さんが止まりました。
妖精さんはフワーと塀の上まで飛び、そこで昼寝をしている真っ黒いニャンコに声をかけました。
『お昼寝中、ゴメンなさいね。ちょっといいかしら? 耳の所だけが黒い、白い猫を探しているの。丸く太っていて、目の色は緑なの。知っている? 教えてほしいの』
黒猫はビックリして飛び起き、目を丸くしていましたが、再び妖精さんを見ながら自分の右の前足を軽く舐め、思い出しているかの様に首を左右に揺らします。
あの黒猫さんも妖精さんが見えるのですか?
驚きです。
【動物は霊感が強いモノが人間よりも多いんですよ】
マルちゃん、なんだか久しぶりに声を聞きました。
そして、その妖精さんの声に答える様にニャンコが喋り出しました。
「ニャーニャ?! ニャーンニャニャー、ニャニャー......。ニャーゴ? ニャンヌニャーニャンゴ」
よく喋るニャンコです。
重要な事を言っているかもしれませんが、私に猫語は分かりません。
その時です。
チビが、常に私の側にいたチビが、反応したのが分かりました。
[な、なんだ、このキラキラしたの?! ああ、耳が黒い太っている白い猫、目が緑色......。ブチのことかな? さっき公園の向こうの車通りが多い所を走って行っていたよ。そっちは危ないって声かけたけど聞こえなかったみたいだった。って言ってるワン]
なんと、チビが黒猫の言っている事を通訳してくれました。
チビ、猫語も分かるのですか?!
黒猫さんの言葉を聞いて、妖精さんの顔色が真っ青になりました。
妖精さんのお願い事は、そのブチちゃん? が大変って事みたいなんです。
詳しく話している暇はないって言って進み出したのでそんなに詳しい事は聞けてないんです。
だけど、ブチちゃん、そのニャンコちゃん。
野生のニャンコちゃんなのでしょうか?
『家猫ちゃん』なんでしょうか?
もし『家猫ちゃん』なら車通りが多い所は危ないです!!
私は急にゾワゾワしてきました。
妖精さんが黒猫さんにお礼を言って公園の方向に進路を変えて、スピードを上げて飛び始めました。
知羽君も走って追いかけます。
私は知羽君の中で見ているだけですが、私も走りたい、急がなきゃ!! そう思いました。
ドクドク
ドクドク
頬に風を感じ、知羽君の呼吸の音と、心臓の音が聞こえました。
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