第60話 知羽君の右の眉? 知羽ちゃん、心配だ。(優 視点)


 知羽君(知羽ちゃん)を追いかけたかったけど、優さんもそう思っているみたいだったけど、すぐに授業の始まりのチャイムがなってしまった。




 皆が一斉に席につき、背の高い女の先生が入ってきた。


 担任の山形先生だ。


 この世界の山形先生も女性なんだな。


 ちょっとだけふっくらしていて、いつも笑っている優しい先生だ。


 山形先生の授業はわかりやすくて聞きやすい。





 あー、タイミング逃してしまった。


 先生の声とコツンコツンとチョークの音が響く。


 

 


 振り返りながら、先生が松川君はどうしました?

 と聞いているが、知羽君の友達らしき少年が腹痛で保健室です。


 と言っていた。



 



 知羽君、どうしたんだろう?



 俺は知羽ちゃんの事は良く知っている。



 

 だけど、知羽君の事は全然分からない。




 心配だ。


 俺は優さんの身体が動かせるなら、すぐに知羽ちゃんの元に駆けつけたかった。





 だけど、この身体は優さんの身体だ。



 もちろん動かす事はできない。

 優さんの同意が必要だ。

 



 優さんの授業中の様子を見ていると、途中で授業を抜け出すタイプではなく、真面目そうな感じだ。



 だけど、身体が弱いらしいから気分が悪いと言って、抜け出せるだろうか?



 ダメだ。



 身体の弱い優さんを一人で保健室に行かせる事はないよな。


 誰かがついてきてしまうよ。



 本当に知羽君が保健室に行ったなら、それでも問題ないけど、俺はどうしてもそう思えなかった。




【何を心配しているの? 確かに腹痛って言うのは心配だけど、貴方は知らないだろうけど、知羽君ほどのお人好しは、そう居ないのよ?】



 そうだよな?




 だってこの世界の知羽ちゃんだものな。



 悪いヤツじゃないよな。




 だ、だけどさ。




 同一人物と言ってもさ、男の子なんだよ?



 まあ知羽ちゃん、黄泉の水は飲んでないだろうから、優さんと違って、こんな風に心の中で会話している訳じゃないから安心だけどさ。




【分かったわよ。この授業終わったら保健室に行きましょう? だけど波留にだけは一応言って行くわね。心配かけちゃうから】



 ありがとう。



 だけど、この授業を聞いた後か......。


 

 俺は目だけ動かす事は可能だったから何とか、上の方の壁にかかっている時計に目線を移した。




 黒板をノートに写している優さんによってすぐ目線は外された。






 だけと、俺は知羽ちゃんの事が心配で仕方なかった。



 だって、違う世界に来ているんだ。



 マルちゃんだって、いったい何を考えているか分からないし、知羽ちゃん、絶対不安だと思うんだ。



 あー。


 


 俺は心配でソワソワした。



 先生のチョークの音に合わせて、脈が早くなる錯覚におちいる程、ソワソワした。




 山形先生は優しく分かりやすく教えてくれているのに......。


 山形先生、ごめんなさい。




【知羽君、どうしたんだろう。



たまに訳の分からない行動をする事があるのよね。




まあ、知羽君は天然だし、悩みも全然無さそうなくらいプラス思考だし。



大丈夫だとは思うけど......。




知羽君は嘘をつく時、右の眉が少しだけ上がる。



子供の頃からの癖だ。




さっき、腹痛で保健室に行く、心配ないと言っていた時、右の眉が少しだけ上がったのよね。



つまり嘘をついていると言う事......】



 優さんの心の声に一瞬、耳を疑った。






 な、なんだって!



 今、何て言ったよ。



 う、嘘を、知羽君は嘘をついていると、そう言ったのか?!




【もう! 私は何も言ってないわよ。考え事ぐらいさせてよ。アナタの声、すごく頭に響くのよ! だから知羽君は悪い事はしないから大丈夫だってば、先生の授業が聞こえないでしょう!】



 優さんの声の方がよっぽど、うるさい気がしたが、優さんを怒らせるのは得策ではないと思い、俺は慌てて謝った。




 ごめん。



 だけどさ。




 俺達の事情も話しただろう?




 知羽君は何もするつもりなくても、こんだけ不思議な事があっているんだ。



 何かに巻き込まれても不思議じゃないと俺は思うんだよ。




 ドクンと、優さんの心臓がなった。



 そうだよ、心配だろう?




 優さんも......。





【確かにね。そうかもと思って、ちょっとびっくりしちゃったわ。

クスクスッ。

でも、大丈夫よ。

知羽君はなんだか味方がいっぱいいるみたいだもの。

その事を知っているのは多分、私だけだと思うし。

私も知っている事、内緒にしているけどね】



 そう言いながら、優さんは意味深に笑った。



 心の中だけで笑うなんて、優さん、器用だな。



 味方?



 友達が多いという事か?




 でも友達も今、授業中だろう?



 あーーーーーー。





 時間、たたない。




 時計の針、あんまり動いてない。




 止まっているんじゃないのか?




 俺はイラつく心をどうにか落ち着かせ、見える範囲で時計を睨んだ。





 早く、早く、授業終われ!




 早く終わってくれ!






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