第58話 僕の本当の目的 (パワーチャージ球体 マル視点)




 こんにちは。


 僕はマルと言います。



 パワーチャー球体と言うのが本名です。



 僕は運爺さんの持ち物だけど、何年、何十年、何百年、いやもっと長い時間かもしれませんが、運爺さんの中に居ました。



 しかし、僕は、一度だけ、外に、今の知羽君の世界に一人で行った事があります。



 一度だけと言いましたが、三年前にも僕は外の世界へ行ったので、厳密には二度という事になるかもしれません。



 一度目は、一人で行ったと言うか、その世界に落ちてしまったのです。


 運爺さんは、その時、それどころではないぐらい忙しかったという事と、あまり必要としていなかった僕を落としても探そうと思ってくれませんでした。


 と、いうか、落とした事すら気づいてなかったのかもしれないです。





 僕は初めての場所で一人きり。


 しかも当時の僕は心はあっても喋ったりする事もできず、目も口も、もちろん手足も無く、タダの丸い玉でした。




 転がっているだけなら本当にタダの丸い玉だったのだと思います。


 子供のおもちゃの様にも見えたと思います。




 僕は何処かの空き地に転がっていました。



 草が僕の背丈以上、生えていたので、僕は簡単に隠れてしまいました。




 僕が僕になる前の記憶、それは僕にはありません。



 昔すぎて、忘れてしまいました。



 僕は本当は誰かの役にたってみたかった。


 誰かを喜ばせたり、笑わせたりしてみたかった。



 役立たずのまま、そんなのは嫌だった。



 このまま、僕の姿も心も消えてしまうのでしょうか?




 僕は心細くてたまりませんでした。



 寂しい。



 心がキュッと痛かったです。



 



 僕がコロコロ転がっていても誰も気づかない。


 だんだん暗くなってきました。



 星が見えてきました。



 僕の姿はこの暗闇に隠されてしまう。



 僕は、最後の力を振り絞りました。



 僕からは緑色の光が出ました。


 その光につられて、精霊が集まってきました。


 だけど、精霊は僕の存在を知りませんでした。


 少し離れた所で仲間同士で、僕を見ながら何か話している様でした。


 僕は運爺さんが色々な本を読んだり、色々な方達を、間接的にサポートしていたりするので、精霊に対しての知識がありました。





「うわー、すごい。綺麗っ。すごーい」


 そう言ってキラキラした目で、僕や精霊達を見ながら僕の側に近寄ってきたのが当時、三歳の知羽君でした。






 僕は知羽さんにポジティブな知羽さんを探してそこに連れてきた。


 と、言いました。



 だけど、それは嘘です。




 僕は知羽君に会いに来たのです。



 三歳の知羽君に拾われて、運爺さんが僕が無くなっている事に気がついて、探しにくるまで、三年間僕はずっと、知羽君と一緒にいました。



 僕は知羽君の色々な所を見て、心に触れてすぐに知羽君の事が好きになりました。



 知羽君は好奇心旺盛で、色々な事に興味を持ちます。

 毎日が目まぐるしく過ぎ、だけど笑顔が溢れる知羽君の側は楽しかった。


『幸せだった』





 知羽君は僕が喋れる事を知りません。


 僕が知羽君の事を思っている事も知りません。



 運爺さんは僕を見つけると、知羽君の僕に関しての記憶を消してしまいました。


 僕は知羽君に話せなくても、ちゃんとさよならしたかった。


 僕を拾ってくれたお礼が言いたかった。



 運爺さんの拠点は知羽さんがいる世界です。


 運爺さんは忙しいので、知羽君の世界に行く事はありませんでした。


 運爺さんはそれぞれの世界に直接行かなくても仕事はできるのです。




 だけど、僕は知羽君に会いたかった。



 僕は色々、考えました。


 僕はどうしても知羽君に会いたかったのです。




 そして、ようやく、知羽君の中に知羽さんとチビさんと一緒ですが、入ることができました。



 やっと、やっとです。



 だけど、まだ知羽君に僕の声は聞こえません。



 僕の目的はまだ果たせてないのです。




 知羽さん、僕の身勝手に巻き込んでしまって、ゴメンナサイ。




 知羽さんにしていた説明。


 ちゃんと本当です。



 でもポジティブのパワーを貯める為じゃなく、僕の目的は知羽君に会う事でした。


 


 巻き込んで、ゴメンナサイ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る