第56話 優さんとの心の会話(優 視点)

 何とか学校に到着し、知羽君が優さんのランドセルを机の上に置いて席についた。



 知羽君は教室についた直後に男子生徒に声をかけられたようだが、あんな男、うちのクラスに居たか?


 


 そう思っていたら優さんも声をかけられて、知羽君が俺の視界から外れた。



「優ちゃん、おはよう! 今日はちょっと遅かったね? 少し息も切れているみたいだけど、大丈夫?」


 そう声をかけてきた女生徒、誰だ?



 でもなんか見た事がある様な......。



 俺は知羽ちゃんの方も気になったが、優さんがそちらの方を向かないと知羽君(知羽ちゃん)の顔を見る事ができない。


 俺は今、優さんが見ている女子の顔を観察した。



 顔の特徴は少し頬が下膨れで、目も一重瞼、中々特徴的な顔をしている。


 


 あっ、波留? 




 そう、いつも学校で俺の後ばかり着いてきていた、お調子者で親友? 悪友? の波留だった。



 顔は変わってないけど、女の姿だし、一瞬分からなかったよ。


「波留(はる)、おはよう。心配かけちゃったね。大丈夫だよ。ありがとう」



 優さんの波留に対する返答は声のトーンから言っても優しく感じた。


 どちらかと言うと知羽君に対しての口調の方がきつかった気がする。



 キツイと言うのも違うか?


 なんだろうな、素直じゃない。と言う感じだろうか?


 

 


 優さんの周りには波留の他にも数人の女生徒が集まっている。


 顔触れは俺の友達と同じという訳でもないみたいだ。


 波留は事あるごとに俺、というか優さんにくっついてくる。



 柔らかい身体から抱きつかれているのだが、中身が波留だと思うと、全然、興奮もしないし緊張もしなかった。



 優さんも抱きつかれる度にびっくりはしているが嫌がってはいない。 


 優さんは波留の事はいつもの事なのか、そんなに気にしていない風だった。



 それよりも、やはり知羽君の事が気になるのか、チラチラ見ている。



【何? 貴方、本当に誰なの? 私の事を監視しているの? 私、やっぱり幻聴が聞こえてきているのかしら? 誰かに相談すべき?】

   

 優さんが心の中で俺に問いかけてきた。


 自分の、優さんの眉間にシワが寄ったのが分かった。







 ムクさん?


 聞こえてる?



 今までの出来事、全部、優さんに話しても大丈夫なのかな?




 このままじゃ不安にさせてしまうよ。



 俺はムクさんに問いかけた。

 だけど、俺が優さんに話しかけていると勘違いしたのか、答えたのは優さんだった。


【ムクさん? 私はそんな名前じゃないわ。貴方、幽霊? 取り憑く相手、間違えてるわよ?】



 ムクさん!


 説明しないと優さんが勘違いしちゃっているよ。



『うーん。私の事はふせて欲しいんだけど、名前、出しちゃったわね。黄泉の水、飲ませちゃったし、仕方ないか。良いよ。私の事は上手く隠して言ってよね』



 そのムクさんの返答に俺はまた頭をかしげた。





 何故、隠す必要があるんだ?


 怖がらせない様にする為の、配慮か?





 でもまあ、言って良いなら話が早い。






 優さん、勝手に身体に入ってゴメンね?





 俺の名前は笹山 優。

 ココとは違う世界から来た君自身なんだ。




【............。何? 成仏できてない方が私になり変わるつもり? だけど、幽霊にしては礼儀正しいわね。だいたい、違う世界って何? 異世界から来たとでも言いたいの? 私は異世界転生モノも多少は読むけど、普通のファンタジーの方が好きよ? からかうなら、もうちょっとリアリティーがあるからかい方じゃないと信じられないわね】




 違うよ!



 な、何から説明すれば良いんだ。



 頭を悩ませていた俺だった。



 俺と会話しながらも、優さんの日常は進む。



 始めは俺への返答に声を出して答えそうになっていた優さんだか、時間が経つにつれて慣れてきたようで、日常も送りながら俺とも会話出来る様になっていた。



 優さんは、やはり俺だ。


 俺は皆には内緒の趣味があった。



 知羽ちゃんにも内緒の趣味だ。



 物語を作る事。




 それが俺の隠している趣味だった。



 優さんも、小説を書いたり、読んだりする事に夢中みたいだ。




 色々話していると俺と優さん、書いているジャンルは違うみたいだ。


 優さんが書いているのは冒険ファンタジー。




 俺?


 俺の書いているのは......。



 純粋な恋愛小説。



 知羽ちゃんに言いたいけど、言えない事を全部小説に書いてしまっていたりする。



 って、この事も優さんには聞こえちゃってるよ......。



 あわわ。



 優さんは自分って分かっているけど、恥ずかしすぎる。



 そんな風に自分の事も説明しながら、今回の色々あった不思議な出来事を話すと、やっと優さんは信じてくれた。



 というか、興味津々に色々な事を聞いてきた。



 



 その時、知羽君が椅子を押して立ち上がる音がした。



 お腹が痛いから保健室に行くと言っている。



 優さんと意見も一致し、知羽君に着いて行こうとしたが、笑顔で断られてしまった。



 知羽ちゃんはのんびりしているのに、知羽君は、お猿の様にすばしっこい。


 本当にお腹が痛そうには見えない。



 あっという間に知羽君は見えなくなった。



 知羽君、どうしたんだろう?




 今更、追いかけられない。



 知羽君、お腹、大丈夫かな?

 何か違う原因があるように見えたな。


 



 もしかして、知羽ちゃんに何かあったかな?



 やっぱり、今からでも、追いかけた方が良いだろうか?




 

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