第55話 知羽君の力、私の弱さ

 美雪君と知羽君は本当に仲良しさんみたいです。


 知羽君の中にいるという事は、コンプレックスを刺激されます。



 だけど......。



 知羽君は私です。


 知羽君の中はウキウキした気持ちで溢れています。


 

 中にいるだけで自分の心が癒されていく事が分かります。


 知羽君の側には、いつも美雪君がいますが、授業と授業の間の休み時間には自然と色々な男の子が声をかけてきます。


 その子達は、私の世界の子達と同じ性別の子達も居れば、美雪ちゃんの様に反対の性別になっている子もいました。



 優さん(優君)の事が気になりますが、知羽君がそちらの方を見ないと私は優さんを見ることができません。



 知羽君がチラッと斜め後ろ方向に居た、優さんを見ました。



 優さんは、大人し目な見た目の女生徒数人に囲まれていました。


 はしゃぐ様に優さんにくっついて喋る子もいます。


 優さんの中には優君がいます。



 なんだか面白くありません。



 知羽君も、学校内では優さんと喋らないのでしょうか?



 この状態って、辛すぎます。


 優さんは性格は少しだけ優君と違うみたいですが、なんでしょうね、少し、優君がダブッて見えているというか、重なって見える様な気がしてきました。



【優ちゃん、調子良さそうだな。朝はなんであんなに、機嫌悪かったのかな?】


 優さんの元気そうな姿を見て安心したのか、知羽君はまた男子達との会話を楽しんでいました。




 さっきダブッて見えていたのはなんだったのでしょうか?


『知羽君のおかげでパワーが少しずつ貯まってきた事で、知羽さんに、優さんの中の優君の状態が見える様になったみたいですね』




 え!!


 マルちゃん、急に話しかけてきたら、びっくりするよ。




 それって、そんなに、ポジティブゲージが貯まってきているの?



『知羽ちゃんは会話する事が苦手ですよね。自分をさらけ出す事、人を信じる事も、苦手ですよね?

怯えながら生活するのはしんどいですよね?』



 マルちゃん......。



 よく私の事が分かっていますね。




 だけどマルちゃん、そんなキャラでしたか?



『僕は確かに子供です。だけど、パワーの質で僕は成長するのです。僕がパワー集めに必死になるのは、そのパワーの質で僕の成長過程も変わるからです。知羽ちゃんが、悪いと言っている訳ではないですよ? 知羽君は知羽ちゃんです。成長してきた方向が違って、知羽ちゃんの心は傷を負っているのです。知羽君は疑う事を知りません。人と関わる事が大好きです。会話の内容を良く聞いていましたか? 知羽君は友達の嬉しい事は全部、自分も心から嬉しいのです。だからパワーが貯まるのも早いのでしょうね』


 そうなのですか......。



 私は確かに臆病です。


 上手く喋れなくて、必要以上に人との関わりを避けていたと思います。




 だけどですよ?



 


 信じすぎるのも危ないと思うな......。


 



 だって、周り全部が良い人ならそれでも良いと思いますが、色々な人がいるのですよ?





「美雪、悪い、ちょっと俺、腹痛くなってきたから保健室行ってくる」




 そう言って知羽君が立ち上がりました。


 椅子の引く音と、知羽君の声に優さんがびっくりして、こちらを向いた様な気がしました。


「え? 大丈夫か? 付き添うよ」


 そう言って美雪君が立ち上がりましたが、知羽君が柔らかく笑って断りました。


 優さん(優君)も心配そうにこちらに来ようと立ち上がりましたが、知羽君はやっぱり笑って断っていました。




 どういう事でしょう? 


 お腹は痛くありません。



 知羽君は何処に向かっているのでしょうか?



 知羽君は教室を出て、廊下を歩いています。


 すれ違う人は知り合いが多く、その度に笑顔で対応しています。



 知羽君は階段を上がっていきます。


 一階、二階と上がっていくたび、私はドキドキしていました。


 何故だか知羽君の心の声が聞こえなかったからです。




 屋上の扉の前まできました。



 だけど、扉は開けずに知羽君は壁に寄りかかりました。




【お姉さん、俺の中で、さっきから喋っている、お姉さんは誰ですか? なんだかしんどそうですね?

貴方は幽霊ですか?】



 え!!



 知羽君、私の声、聞こえてるの?!






 

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