第53話 私、本当にどうしちゃったの?(パラレルワールドの優ちゃん 視点)

 今日は良い天気。


 庭に植っている木々に光が透けて綺麗。

 私は玄関の扉を開けて思いっきり深呼吸をした。


 私、笹山 優は小学6年生。


 身長が165cmもあって、並ぶのはいつも後ろの方。


 細身だけど、背が高い事で、健康優良児と思われる事も多い。



 疲れやすいから外よりも家の中の方が好き。


 本を読んでいると、すぐに時間が過ぎていく。

 最近は、ちょっと書く事にも夢中になっていたりもする。


 小説、なんて呼べる代物じゃないけど想像する事は楽しすぎる。


 想像の中では私はそれこそ健康優良児で、色々な所に冒険に向かうの。


 いっぱい走れるし、風邪を引きやすいなんて事もない。




 家の前で男の子がしゃがみ込んでいるのが見えた。


 それもいつもの日常だ。


 知羽君。


 何が面白いのか私には分からない。地面を観察しているみたいだ。


 いや昔は、私も、そういう事も好きだったし、興味もあった。


 まあ、昔の事はもういいの。


 今の私は物語を作る事に夢中だから。



 知羽君とは幼なじみ。


 幼い頃からずっと一緒に育ってきた。


 知羽君のお母さんは私のお母さんと親友で、母子家庭の知羽君はしょっちゅうウチに来ていた。

 家ではもう、家族の様なものだった。



 知羽君は、わんぱく坊主で、良く問題を起こす。

 だけど、知羽君の問題を起こす原因はだいたい、他の誰かの為だったりする。



 だから私はお人好しの知羽君が放っておけなかった。



 知羽君とは、毎朝、一緒に学校に行く。


 今日も私を迎えに来てくれていた。



「おはよう。今日も何見ているの? 学校行くよ。そんな格好してると、また学校に行く前に泥だらけになっちゃうわよ?」


 知羽君は私の声に慌てて立ち上がって、お日様の様にクシャッと満面の笑顔を作った。


「おはよう! 優ちゃん。今日、凄く良い天気で気持ちが良いね」


 知羽君の表情に私も顔がゆるんだが、何となく恥ずかしくなって、目線を外し、そっぽを向いた。



 私の少し後ろを知羽君が歩く。


 時おりスキップしたり、鼻歌を歌ったりと楽しそうな知羽君。



 その時だ。



 一瞬、身体がガクンと揺れて、ちょっとだけ身体が重くなった。



 そして、少しだけ身体が熱くなった。



 何が起こっているのか分からないが頭の遠くの方で知らない男の子の声がした。


 その声が聞こえ始めてから少しずつ、本当に少しずつだけど、私の中で変化が起こっている気がしてならなかった。



 知羽君。朝から元気ね。疲れないのかしら? 

 今日は体調は悪くはないんだけど、なんだか可笑しな感じなのよね。

 頭の中ではっきりとではないのだけれど、男の子の声が聞こえてくるの。幻聴かしら......。



 私がそんな風に考えていると、その声も私と会話が通じているかの様に私の声に反応を示している。






 私、少し疲れているのかしら? 

 頭の中で誰かが話しているとどうしても思ってしまう。

 それに、この声が聞こえ出してから何かおかしいのよね。

 知羽君がいつもと何かが違って見えるの。

 日の光が髪に反射して、キラキラ見えるし。

 なんだか、知羽君がいつもの行動となんら変わりがないのに、無邪気で可愛く見える。

 私、目がどうかしちゃったの?




 本当なのよ。


 ゆっくり歩く私にすぐに追いついた知羽君。

 

 私は知羽君を見ては、自分の目がおかしいのかと何回も何回も瞬きを繰り返した。



 私の中の男の子の声はうるさいぐらい喋っている。



 困った手紙も受け取った事を思い出していたら頭の中の声は更に喋り続け、私もだんだん自分の顔がこわばってくるのが分かった。



 その時、頭の声が、危機迫った声で私の頭の中で叫んだ。




【優さん!


 ストップ。


 周りをちゃんと見て、知羽君来てないよ?】



 一瞬意味が分からなかったけど、なんとなく振り返ると知羽ちゃんが転びそうになっていた。



 危ない!【危ない!】



 私の考えているのと同時に頭の中の声も叫んだ。



 そして、わたしの身体が勝手に動いているような錯覚に陥った。



 私、凄いスピードで走ってる。


 髪が揺れるぐらい。



 こんなスピードで走る事なんて今までなかった気がする。


 そして、なんとか間に合い、転びそうだった知羽君を支える事ができた。



 知羽君は150cmで小柄だ。


 だから女の私でも支える事ができる。



 だけど知羽君がこれ以上大きくなって筋肉も付き出したら、支えることも難しいと思う。



 知羽君の肌に触れた途端、私の心臓が跳ね上がった。


 脈も早くなってきてる。



 体調は良好だ。

 あんなに走ったのに、寧ろ気持ちが良いくらい調子が良い。



 だけど、熱い。


 熱が出た時みたいに熱いよ。



 知羽君、こんな顔していたっけ?



 身体が熱いし、なんだか目も潤んできた。


 走ったからか、少し息も切れる。



 深呼吸したら大丈夫。


 知羽君、柔らかくて、温かい。



 私の身体はまだ熱い。



 私、本当にどうしちゃったの?



 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る