第50話 優さんに入る前に(優 視点)

 俺は水晶に映る、この世界の俺達を見て、少しだけ、戸惑っていた。



 だいたい、この世界って、これからどれくらいの時間、いる事になるのだろうか?


 パワーをいっぱい使ってここまで来ているんだ。    

 帰る為にはそれ以上のパワーを貯める事が必要だろう。

 その為には、どれくらいかかるだろうか?


 優さんの身体に長く入るとする。



 優さんは普通に生活しているんだ。


 トイレにも行くだろうし、お風呂にも入るだろう。


 そういう部分を見ないでいようと思っても目に入ってしまうだろう。

 


 いくら自分だと言っても、知羽ちゃんを裏切るようで、なんだか、嫌だな。

 裏切るもなにも、俺達はただの幼なじみで、俺が知羽ちゃんに片思いしているだけなんだが......。




 絶対そんなもの見たくないとは言わない。


 小学生だからと言って、そういうのに興味がないとも言えない。


 男と言うものはそういうものだ。


 見ようと思ってなくても目が勝手に引き寄せられてしまうものなのだ。


『準備は良い? 何をごちゃごちゃと考えているの? もちろん、優さんの恥ずかしい部分は私が守るわ。お風呂やトイレ、着替えなどの時は、なるべく貴方には見えないようにシールドをかけるつもりよ。まあ、想像は勝手にして頂戴。貴方自身は入っているだけで優さんの身体は動かせないしね。だけど......』


 ムクさんが呆れた様にそう言いながら俺を急かした後、深刻な顔つきに変わった。


 

 そうか、シールドをかけるのか。

 残念なんて思ってないぞ。


 それなら安心だな。


 心の準備ができた所だった俺だが、今度はムクさんが考えこんでいる。



『......。私が一緒に入るのは少し優さんに負担になるかしら? 優さんは貴方よりは少しマイナス思考だし、ちょっとだけ身体も弱いものね。ああ、心配しないで。もちろん寿命はまだまだ全然大丈夫そうよ。貴方みたいにスポーツでもしたら身体ももう少し丈夫になるのだろうけど......』


 この世界の俺は身体が弱いんだな。


 そう言えば俺も、昔は身体が弱かった気がする。


 知羽ちゃんを守りたい一心で身体を鍛えていた事が実は自分自身を守る事にも繋がっていたという事か?


 だけど、俺だけで入ってちゃんと戻れるのか?



『不安そうね。クスクスッ。ちゃんと私も着いて行くわよ。だけど、貴方のパワーを優さんに分けてあげれるアイテムを渡すわ』


 そう言ってムクさんが取り出したものは、ペットボトルだった。



 お茶?


 いや、色がついていないから水か?



 俺は別に喉は乾いていないんだか......。



『これは黄泉の世界の果ての水。死神のアイテムだったりするの。魂を抜く前に、飲むと、この水からその相手に同調できるの。そして、その人の気にしている事、心残りなどを読み取る事ができて、死神のパワーを分け与える事ができるの。魂を抜くのは寿命がきてしまっているから。誤解されがちだけどむやみやたらに魂を抜いている訳ではないの。だけど、未練があると、あの世に行くまでに長い時間をかける事になる。最悪、この世にとどまってしまう。それは守護霊としてなどではなく浮遊霊として。私達はなるべく、心安らかにあの世に亡くなった方をお連れする事が仕事なの。と、関係ない事まで話してしまったわ』



 えっ?



 死神のアイテム?



 何故、そんな物を俺に渡すんだ?



 だけど、死神に良いイメージはなかったけど、色々と大変なんだな。


『そうなの、以外と忙しいのよ。なのになりては少ないしね。って世間話してる場合じゃないわ。渡す理由はね......。一緒にいて分かった事があるの。と言うか、運爺さんに聞いていたけど、私がイマイチ信じて無かったんだ。貴方って、運爺さんとオーラがすごく似ているみたいね。それで、運爺さんのパワーを少し吸い取ってしまったのね。だけど、そのパワーも貴方に入った時点でまた違うパワーに変換しているみたいなのよ。うーん。上手く説明できないけど、貴方はすでにパワーをある程度、持っているの。だけどそれはポジティブとは違うパワー。この黄泉の水を飲んでから優さんの中に入ると、貴方と優さんがさらに深く繋がるの。だから貴方のパワーも分け与える事ができるのよ』




 俺はムクさんの説明に納得しようと思っていたが、何故だか違和感があった。



 それなら、何故、その水を飲むのがムクさんじゃなくて、俺だったのか?



 何故、その必要があったのか。



 その時の俺は気づけずに、黄泉の水を飲んでしまっていた。

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