第49話 えっ? 優君じゃなくて優さん?

 自分自身ではなく、他の人の中にいる。

 

 まあ他の人と言ってもこの世界の私、なんですが......。

 なんだか不思議な感じです。


 この世界の時期も私が元々いた場所と同じなのでしょうか?


 景色的には、いつも見ている通学路です。


 ちょっと田舎なので、朝でも車通りは少ないです。


 マルちゃんが、小学6年生と言っていたし、服装とか、気温の感じから、時期はそんなに私がいた所と変わらない気がします。


 パラレルワールドと言ってもどんな所なのでしょうか?


 私がこの世界では男の子? なんですよね?


 

 


 頬にあたる風が気持ち良いです。


 私の身体が少し跳ねています。

 背負っているランドセルがガチャガチャと揺れます。


 スキップしながら歩いている様です。


 私はあまりスキップじたいしないので、少し変な感じです。


 私の目線と言ったら良いのか、ええと、私だけど男の子だから知羽君で良いでしょうか。


 自分の名前に君づけなんて、違和感でしかないです。


 知羽君が少し目線を上げると隣には背の高い女性がいました?


 丁度、目線的に優君と同じぐらい背が高いです。



 誰でしょう?



 やはり、パラレルワールドと言うぐらいですから、私がいた世界とは少しずつ色々な事が違うんですよね?

 

 まず、私の性別も違いましたし......。

 人間関係も違うのでしょうか?


 この世界の私はポジティブと言う事ですから、やはり私と違って、知羽君は友達が多いのでしょうか?


 もしかして、男同士という事で、優君と親友という場合もありますよね?


 どうなんでしょうか?



【今日はこんなに良い天気なのに、優ちゃんはなんか怒ってんなー。俺、なんかしたかな? うーん、ちょっと気まずいな。変顔でもしたら笑ってくれるかな?】


 頭の中に知羽君の心の声が響きます。


 マイナスな言葉の様にも聞こえますが、声のトーンからすると、そんなに深く考えていない様にも聞こえます。

 



 この人、本当に私でしょうか?

 


 私は男の子だったらこんな感じなんでしょうか?



 なんだかちょっとショックです。


 男の子でも背の高さも変わらないのですね。

 遺伝子の問題でしょうか?



 だけど、ちょっと待って下さい。



 優、ちゃん?



 って、知羽君の心の声は言いましたか?


 私は隣の背の高い女性を観察しました。


 かなりの美少女の様でした。


 私は知羽君の身体を自由自在に扱える訳ではないので観察も難しいかとも思いましたが、知羽君がチラチラと美少女さんを見るので、しっかり観察出来ました。



 顔の輪郭、形が良く整った鼻、二重瞼、長い睫毛、落ち着いた表情。


 優君。



 髪をこのまま短く切ったら、そのまんま優君です。



 優君?


 へっ!



 も、もしかして、この世界の優君は優さん、なのですか?


 もしかして皆、性別が逆転してしまっているのでしょうか?



 その時、背後から少ししゃがれた低い声がしました。


「おっ、知羽坊、朝から元気だね。スキップなんてしてると、また転ぶじゃろ。優ちゃんに迷惑かけちゃいかんぞ?」


 そう話しかけてきたのは近所の武夫じいちゃんです。


 玄関口から日課の様に気安い感じで声をかけてきました。


 武夫じいちゃんの性別は変わっていません。


 全部が逆転している訳ではないと言う事でしょうか?


「あっ、ひでーな。迷惑なんてかけないよ。武夫じいちゃんも元気そうで何よりだな。最近は困った事はないかい? また、なんでも言ってくれよな」


 

 知羽君が笑っているのでしょう。

 私の表情が凄く緩んでいる感じが分かります。

 武夫じいちゃんもニコニコニコニコと嬉しそうに笑っています。


 知羽君も笑い、武夫じいちゃんも笑顔。

 私の心まで、ホコホコと優しく包まれているようでした。



『おっ、いい感じに黄色ゲージが上がっていますよ』


 突然のマルちゃんの声に私は少しびっくりしました。


[本当だわん。ワンワン、知羽ちゃん、知羽ちゃん、僕もココに居るワン]


 やっと聞き慣れてきたチビの日本語が私の耳元に聞こえてきました。



 へ? チ、チビ?


 チビも居るの?



 自分自身にしか入れなかったんじゃないの?


 大丈夫なの?


『ありゃ、僕とした事が、やってしまいました。

 このケモノ、ええとチビさん? も連れてきちゃったみたいですね。でも、おかしいですね? パワーは減ってないみたいです。なんでだか分からないですが、まあラッキーでした』



 なんか、やばかった事の様にも聞こえますが、チビも一緒なら心強いです。


 こんな状況で、心ぼそかったから、嬉しいです。


 チビがいると実感したら、知羽君の、実際味わっている感覚とはまた別の所で、チビの柔らかい毛の感触も感じました。


 


 それにしても、知羽君は人と喋るの苦手じゃないんだな。

 本当に私なの?


 でもお陰で少し、黄色ゲージが上がったみたいです。


 


 武夫じいちゃん、久しぶりに見た気がする。


 私は、最近は見かけていなかったし、会った時にも挨拶ぐらいしか、してなかったなー。


 その時は、歩き方もトボトボしてて、しょんぼりして見えてたんだよね。


 挨拶以外、話しかける勇気が私はなかったんだけど。

 


 私が知っている武夫じいちゃんより、この武夫じいちゃんは声も張りがあって、大声で笑ってて、なんだか印象が全然違ってみえました。


 知羽君が武夫じいちゃんと話しこんでいると優さんは先に歩き出してしまいました。


「優ちゃん、待ってくれよ。武夫じいちゃん、またな」


【いつもは待ってくれるのにな、やっぱりなんか怒っているのかな?】


 知羽君が走りながら優さんを追いかけます。


 知羽君は、置いていかれても、めげずに走りながらもスキップはやめません。楽しそうに優さんを追いかけます。


 

 あっ、この感じ、何かが足の爪先に引っかかりました。



 やはり知羽君も私です。

 そそっかしい所は同じです。



【うおっ、こ、転ぶ。優ちゃんに気をつけて歩けって言われてるのに、またやっちまった】


 知羽君、もう少しで、優さんに追いつけそうだったのに。


 知羽君が前のめりになりそうになった時、振り返った優さんが慌てて駆け寄り、私、というか、知羽君を支えてくれました。


 目の前に優さんの長い綺麗な髪の毛、綺麗な顔が見えます。


 優さんの身体は優君と違って、柔らかかったです。



 柔らかいと思った瞬間、知羽君、そして私の動悸が早くなり一気に身体が凄く熱くなりました。



 知羽君を支えた優さんの顔も赤く、戸惑っている様な表情を浮かべました。


 赤くなった優さんを見て、知羽君の身体が更に熱くなった気がしました。


【優ちゃんのこんな表情、初めて見た。か、可愛い】


 知羽君の動悸が、どんどん、どんどん、大きくなって、私もドキドキしました。


 

 

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