第48話 どういう事だ? これが俺達?(優 視点)

 チビの身体を持ったまま、知羽ちゃんが眉間に皺を寄せていた。


 手にかなりの力が入っている様だ。



 チビが心配して、時おり知羽ちゃんの手や顔を舐めて、眉間の皺をとろうと頑張っている。


 だけど、考え込んでいる知羽ちゃんには、それどころではないみたいだった。



 そうだよな。



 自分自身の身体に入り込んで、それだけでパワーは貯まるものなのか?




 それにだぞ?




 自分自身にしか入れない。



 それじゃあ、俺は着いて行けないということか?


 待て待て、それでは知羽ちゃんの事が守れないじゃないか。



 思わず俺が口を出そうとした時、知羽ちゃんが辿々しく、マルちゃんに確認する様に喋りだした。



「マ、マルちゃん、私がこの世界にもいるの? 私自身の中に入るの? それってどういう事? 乗り移るって事? それともこの世界の私をその人の身体から追い出してしまうの? 私は絶対そんな事はしたくない。力になれなくてごめんなさい」




 そ、そうだ、知羽ちゃん。


 良く言ったぞ。




 とりあえず、今はムクさんに力を借りて、元の世界、元の身体に戻してもらうんだ。



 その時、マルちゃんが自分の糸目を見開いた。




 あの糸目、開くんだ?



 じゃー、普段って、目、見えてんのかな?


 以外に黒目、大きいな。



 



 数回瞬きした後、マルちゃんは元の糸目に戻った。



 なんだったんだ?


 マルちゃんは一つ一つの行動が得体が知れないから少し怖いな。




『とんでもないことを言うので、びっくりしました。僕はこれでも、人々を幸せに導く、運命の調整人の持ち物です。まあ、全然使用されていませんでしたが......。とにかく、そんな酷いことはしませんし、させません。この世界のアナタの中にお邪魔するだけです。確かに乗り移る事に近いかも分かりませんが、勝手にその人になりきって喋ったりする訳ではないんです』




 マルちゃんの言葉を聞き、少しだけ安心した。



 マルちゃん、そんなに悪い奴じゃないのか?



 だけど、そんな事して、パワーが無くなったら、知羽ちゃんはどうなる?



 や、やっぱりやばいんじゃないか?



 

 俺は続けてのんびり口調で喋るマルちゃんに、注意深く、耳を傾けた。


 

『この世界の貴方は通常通り、普通に生活しています。貴方はその身体に入り込んで、ちょっと生活を覗き見して頂きます。貴方の声はこの世界のアナタに聞こえることもあります。どう言う風に聞こえるかは、その方その方の感性次第ですが、お告げの様にも思われるかも知れないですね。そこで貴方はこの世界のアナタからもパワーを貯める事が可能になるんです』



 知羽ちゃんの表情は少しだけ緩んだけど、疑う様に目を細めて、マルちゃんを見ていた。




『そうなんですよね。知羽さんはどこ行っても知羽さんです。私は探しました。一番、ポジティブな知羽さんを、そして見つけたのです。では知羽さん。行きますよ。パワーを沢山貯めましょうね』



 だ、だよな?


 基本が知羽ちゃんだものな。



 だけどこの世界の知羽ちゃんは前向きなんだな。

 



 という事は、幼い時の知羽ちゃんの様に、周りに笑顔を振りまいているのかもしれない。



 友達も、多いのかもしれない。



 周りの環境で考え方も変わるものだもんな。




 も、もしかして、この世界は知羽ちゃんの近くに必要以上に多くの男達がいるかもしれない。


 知羽ちゃんの本当の心からの笑顔はそれぐらい人を引き寄せる要素があった。


 幼い頃、知羽ちゃんに近寄って来ていた奴も、本音はそんな知羽ちゃんと仲良くなりたかっただけだったんだと、今は分かる。




 この世界の俺は苦労しているだろうな。



 この世界の知羽ちゃんが他の奴と仲が良いのも、なんだか面白くない気がするな。


 とそんな事を考えていたら、マルちゃんが知羽ちゃんの指を掴み、俺やムクさんが行動する前に、消えてしまった。



 知羽ちゃんが抱きしめていたチビも居ない。




 俺は自分の反応が遅過ぎた事に、何もできなかった事に、腹が立ったが、そんな腹を立てている場合じゃない。



「ムクさん、どうしよう。知羽ちゃん達、行ってしまったよ。助けれなかったよ」



 身体から冷や汗が噴き出る。


 知羽ちゃんの事が心配で、怖くて、どうにかなってしまいそうだ。




 俺はどうにかしてくれとムクさんに訴えかけた。



 流石のムクさんも慌てていた。



『一緒に居たワンコも連れて行ってしまったね。本人しか入れないと言っていたけど、大丈夫なのかね? 余計にパワーを使うんじゃないのかい。マルちゃんは、やはり考えなしだね』



 ムクさんは困った様に長い髪をかきあげた後、俺の腕を掴んだ。



『こうしている場合じゃない。私達も行くよ! 行くわよね?』


 もちろん行くつもりだったが、ムクさんの迫力は凄かった。


「でも行くって言っても、知羽ちゃんの中には入れないだろう? どーするんだ?」



 ムクさんは懐から水晶の様なものを取り出した。



 そこに映像が、映し出されていた。

 俺も促されるがまま、その水晶の中を覗きこんだ。



『この世界でも知羽さんと貴方は幼なじみみたいだから、アナタに入れば知羽さんの近くに行けるわね。だけど......。大丈夫かしらね』



 その映像に映し出されていたのは、背の高い少し冷めた感じの美少女と、背の低いワンパクそうな、思わず見ているだけで笑っちゃいそうに幸せそうに笑う男の子。



 どう言う事だ?




 これが俺達?



 違和感を覚えながらも、すぐ顔や仕草の特徴で俺は気がついてしまった。



 あの太陽の様に屈託なく笑う、その少年がこの世界での知羽ちゃんで、クールにすましている背の高い美少女が俺だと言う事に......。



 えっ?



 俺、女の子であるオレの中に入るのか?




 それって、色々と、まずくないか?

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