第46話 チビが喋った?!(優 視点)

 知羽ちゃんに説明したかったが、今更説明できなくなってしまった。


 あわわっ。


 知羽ちゃんに、ちゃんと説明しないと、誤解されたままだ。



 そうじゃなくても、幼い頃から比べると、俺と知羽ちゃんには距離が出来てしまっているのに。



 今回の不思議な出来事で、もしかしたら、昔みたいに、何でも話せて、心が通じあっている様な、そんな関係に戻れるかも、そんな風に思っていたりもしたのに......。



 全部台無しになってしまった様な気がする。



 知羽ちゃんは今、どんな風に思っているんだろう?



 そんな事を考えていたら俺が知羽ちゃんに話しかける前にマルちゃんが色々と説明を始めた。



『まあ、着いてきてしまったものは仕方ないですね。邪魔はしないで下さいね。では、ココが何処か説明しましょう。場所自体は実はほとんど変わっていません。空間を移動しただけです。並行世界、パラレルワールドって聞いた事、ありますか? ココは先程の世界ととても似ていますが、違います』



 パ、パラレルワールドだって?!



 そ、そんな所が実在するのか?



 

 俺達は、そんな所に連れてこられたと言うのか?




 ほ、本当に危機一髪だったみたいだな。


 ムクさんの話だと、マルちゃんが、知羽ちゃんの心を元の身体に戻す為には相当なパワーがいると言う話だった。


 パラレルワールドまで連れてこられたと言う事は、元の世界に帰り、尚且つ、ちゃんと自分の身体に戻る事が必要だ。


 それには、それはもう相当なパワーを貯める必要があると言う事だろう。




 もし、俺やムクさんが一緒に着いてきていなかったら、パワーが貯めれないまま、マルちゃんの力が尽きてしまっていたら、知羽ちゃんは永遠に、元の世界にも、元の身体にも戻れない可能性があったと言う事だよな?



 こ、恐っ。




 考えたら本当、ゾッとする。



 知羽ちゃんと一緒にいる事で、また、早い心拍や、熱い身体に悩ませられる状態になってしまったが、迷わずついてきて良かった。


 あの時、間に合って良かった。


 

『他の人の力を借りようと思いまして』



 そう、マルちゃんは言いながら、自分の口の下にある、二つのゲージの説明を始めた。




 ポジティブな力を集める。


 確かそれが目的だったよな?


 それは美少年にも、お爺さんにも聞いた事だ。 



 マルちゃんが言うには、黄色ゲージがポジティブ。


 青のゲージがネガティブと言う事だ。



 フムフム。なるほどな。


 このゲージを見るとポジティブになっているか、ネガティブになっているか分かると言う事だな?



 ゲージは現在、黄色より青色の方が多い事が、見てすぐに分かった。



 青ゲージの方が多いな。



 確かに、これではパワーは貯まらないだろうな。





 だけど他人の力を借りる?


 何をさせる気だ?


 知羽ちゃんに危ない思いをさせたら承知しないぞ?



『他人の力ってどうするつもりなのさ。まだこの子達には力が備わってないんだよ? しかも、心の状態じゃ、この世界の人には見えないじゃないか。他人からポジティブの力を貰うなんて......。まさか、他の人の心の中に無理矢理入らせるつもりじゃないだろうね』



 そう、ムクさんが言い返しているのを聞き、反論出来ずにいた俺は心の中で拍手を送っていた。



 そうだぞ!



 平凡な俺達をこんな所まで連れて来てどうするつもりだ?

 


 だけどムクさん? 心の中にとは一体どういう事だ?




 マルちゃんはまだ得体がしれない。


 ムクさんも謎だが、話していて、人となり(人ではないが)も見えてきて、悪い方ではないと、今では思っていた。



 そんなやり取りを見ていたら、知羽ちゃんがチビに抱きついたまま怯えだした。


 青い顔をして震えている。



 ど、どうしたんだ?


 知羽ちゃん?




『知羽ちゃん、知羽ちゃん。大丈夫だワン。死神さんは悪いことしないんだワン』



 そう言って、知羽ちゃんを慰めたのは、チビだった。



 !!!?



 チ、チビが、しゃ、喋っている?!



 ど、どう言う事だ?



 その事について、聞きたい所だが、今は、マルちゃんもムクさんもそれどころでは無さそうだ。



 もしかして、心の中の言葉は、全て共通で、動物とも話す事ができるのだろうか?



 ウチは動物は飼っていないが俺も動物は大好きだった。



 色々な動物と話ができるなんて、そんな事がもしできたら夢のような話だな。



 知羽ちゃんはさっきからチビを抱きしめたまま、喋ろうとはせず、だけど、凄く辛そうに眉間に皺を寄せた。


「ゆっ、優......優、君......、あっ」


 知、知羽ちゃん?



 何? どうしたの?



 それに答える様に、ムクさんが知羽ちゃんの言葉を遮り喋りだした。


『違うわ、私は頼まれて来ただけ。貴方達をあの世へ連れて行ったりしないわ。それよりマルちゃん、答えなさい。まだこの子の達にはパワーはそんなに、溜まってないし、二人とも特別な能力もないわ。どうするつもりなの?』



 そうか。


 知羽ちゃんは死神と言う言葉に怯えてていたんだな。


 確かに俺も初めは凄く怖かったものな。



 ムクさんの言葉にノンビリ口調でマルちゃんが答えた。


『そうですね。厳密にはパワーが溜まるまでは、他人の中には入れません。だけど、波長が同じ、この世界の自分自身には入る事ができます』




 ど、どういう事だ?




 この世界にいるもう一人の自分?




 凄く危険そうな感じがするぞ?




 マルちゃん。そんな、お間抜けそうで、癒し系のような顔をしていても信用できない。



 俺がどうにかして知羽ちゃんを守らなければ。



 俺は眉を潜め、そう思いながらマルちゃんの話を聞いていた。


 

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