第43話 喜んでいる場合じゃない。ここは一体、何処なんだ?(優 視点)

 知羽ちゃんが何か怒っている。

 ど、どうしたんだろう?


 俺は、思わず、知羽ちゃんの肩を持つ手に力が入った。


「え、ええと、優、君? 優君なの?」


 知羽ちゃんが恐る恐ると言った感じで声をかけてきた。


「えっ? あっ、そうか。あっ、えっと、ち、知羽ちゃん。わざとじゃないんだ。あ、危なかったんだ。ええと、何処から話せばいいんだ」


 そうか、俺がココに何故居るかも、何も知らない知羽ちゃんには分からないよな?

 


 俺は、説明しなきゃと、気持ちは焦るが、良い言葉が出てこない。


「えっと、ゆ、優君? 手を離して、ほ、欲しいな」


「あ、ご、ごめん」


 恥ずかしそうな知羽ちゃんの声に、俺は、知羽ちゃんの肩をずっと握ったままだった現実に気がついて、慌てて離した。


 な、なんて、何から説明したら、いいんだろう?


 言ってしまったら、俺は透明になって、知羽ちゃんのあんな近くにずっといたなんて、傍から見ると、変態みたいな行為をしていたんだと、知羽ちゃんに思われてしまう。

 知羽ちゃんに軽蔑されてしまうかもしれない。


 う、上手く説明しないと......。




 俺は、ちゃんと言わなければと思えば思うほど言葉が上手く出てこずに、額から汗が出てきてしまうほど、うろたえてしまった。



『クスクスッ、って、笑っている場合じゃないわね。ええと、マルちゃん。ここ......。どうしてこんな所に、右も左も分からない、この二人を連れてきたの?』



 ムクさん。俺が必死なのに、また笑っている。



 だけど、そうだ。



 ココは一体、何処なんだ?


 あの、チンマリした丸い球体みたいなのが、マルちゃんだよな?


 確か、美少年が知羽ちゃんの掌に埋め込んだんだったよな?



 掌から取り出せたのか?



 いや、今は俺たち、心だけの姿だもんな......。





 ムクさんの言葉を聞いた知羽ちゃんが、周りを見渡した。

 そして、さっきまで赤くしたり、ムッとしていたりと百面相していた知羽ちゃんの顔は真っ青になった。



「きゃー、こ、ここ、何処?!」


 そう、知羽ちゃんにしては珍しく高めの声で叫んだと思ったらなんと、俺の胸に飛びこんできた。




 ............。



 俺はびっくりしすぎて、身体全部の機能が止まったかのように固まってしまった。



 知、知羽ちゃん。



 知羽ちゃんの柔らかい肌が、俺の胸の中に......。



 知羽ちゃんは何度も言うが身体が小さい。

 俺の胸の中にすっぽりと収まる感じも可愛すぎる。


 幼い頃、小さかった自分が情けなかった。



 だから知羽ちゃんの背を追い越した時、嬉しさとともに、絶対この手で守ると決めたんだ。


 知羽ちゃんが大事すぎて、好きすぎて、独り占めしたい、そんな気持ちから、知羽ちゃんをひとりぼっちにさせて、しまっていた。



 今まで全然、守れてなかったよ、俺。



 ドクドクドクドク


 ドクドクドクドク



 何とか気を逸らそうと、違う事を考えようとしても、俺は結局、知羽ちゃんの事を考えてしまう。


 俺の心拍はどんどんどんどん、大きくなっていき、身体中も走り回った様に熱くなっていく。


 そして、知羽ちゃんからも、トクトクトクトクと、早い心拍音が聞こえてきた。



 俺の音に応える様に知羽ちゃんの心拍音も響く。


 二つの音が俺の中で響き、何だか思いが通じあっている様に、錯覚してしまう。



 違う、知羽ちゃんはこの場所が恐すぎてドキドキしているだけだ。



 勘違いしちゃダメだ。



 そんな事思うと、ストーカーと同じだ。


 そう言い聞かせ様と思うけど、知羽ちゃんが、俺に捕まっている手にギューッと力を入れているのを見ると、嬉しすぎて、どうにかなりそうで、口元がだらしなく緩んでしまいそうになる。



 チビが、こっちを見ている。


 笑っている?


 笑っている様に見えるのは気のせいか?



『ええと、盛り上がっているみたいですが、話しても良いでしょうか? どうして、死神さんがおられるのですか? 管轄、違いますよね?』



 俺はマルちゃんの声に、夢の様な時間から現実に引き戻された。

 

 ええと、そうだ。


 いくら嬉しくても、俺はこの、ずっと笑っている様な糸目な顔のマルちゃんとやらに、どこかにつれてこられたんだった。



 喜んでいる場合じゃない。



 俺がどうしてココに居るかも、知羽ちゃんに説明出来てない。



 知羽ちゃん。


 俺は知羽ちゃんを守りたいだけなんだ。信じてくれるだろうか?

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