第41話 近すぎる。熱すぎる。早く着いてくれ(優 視点)
目の前に、ち、知羽ちゃんの顔が......。
知羽ちゃんの前髪が俺の唇に当たってしまいそうだ。
俺は透明だから、当たっても、俺自身も知羽ちゃんも感覚はないのだろうか?
と、思っていたら知羽ちゃんは、すぐに前を向く、俺の唇に知羽ちゃんの前髪が当たりそうで、肩はしっかり掴んだまま、ちょっとだけ避けようとしたが、俺の背中の服をムクさんが掴んでいるから俺は身動きが取れない。
ギリギリの所であと、ほんの1mmぐらいの間隔しかなかったと思うが、知羽ちゃんの前髪に俺の唇は当たらなかった。
だけど、俺の呼吸はかなり荒くなってしまっていて、身体全体が熱くなった。
ドクドクドク、凄い勢いで、脈も心臓の音もどんどん、どんどん大きくなっていった。
まただよ、しかも俺、透明だし、とてもいけない事をしているみたいだ。
何故か知羽ちゃんは何度も前を向いたり、振り返ったりを繰り返している。
その度に、スレッ、スレに擦れそうで、心臓に悪すぎる。
もう、いっその事、ちょっとぐらい当たっても分からないんじゃないだろうか?
俺の中の悪魔がそう囁いた。
駄目だ、駄目だ。
知羽ちゃんの断りもなく、そんないやらしい事、考えちゃ駄目だ。
俺の中の、天使も囁く。
だけど、こんなに、振り返っていると言う事は、知羽ちゃんに、俺が触れている事が、も、もしかしたら伝わっているんだろうか?
俺の背中を掴んでいる、ムクさんの手が揺れている様に感じた。
ムクさん?
どうした?
ちゃんと持っててくれよ?
知羽ちゃんに当たらない様に、少しだけ後ろのムクさんの様子を伺うと、ムクさんは、必死で、笑いを堪えている様だった。
な、なんだよ。
俺がこんなに、必死なのが、そんなに面白いのかよ。
そう思いながら前を向くと、その瞬間に知羽ちゃんも振り返っていたみたいで、ちょっとだけ、本当に一瞬だけだけど、知羽ちゃんの綺麗なオデコに俺の唇が当たった。
俺は、すぐ、顔を逸らしたけど、その瞬間、一気に体中がまた、カーッと、熱くなって、俺の全身の、身体の中のモノが、動き回っている様に、脈が早くなる。
で、デコチュウしちゃった。
知羽ちゃん。
勝手にごめん。
そんな風に、自己反省していたら、知羽ちゃんの指を掴んでいる透明な丸いモノが凄い勢いで走り出した。
あっ、あれが言っていたマルちゃんか、知羽ちゃんが近すぎて、それどころじゃなかった。
確かに、このスピード、しかもマルちゃんが掴んでいるのは知羽ちゃんの指一本。
マルちゃんの手が小さいから指一本しか持てないんだろうけど、危なすぎる。
俺は知羽ちゃんの肩を掴んでいる手に、絶対離さないという思いを込めながら力を入れた。
すごい早さの移動、自分自身が光にでもなってしまった様な感覚を味わった。
周りの空間も、なんだかキラキラして見えて、虹の中を走っている様な錯覚を味わった。
そんな綺麗な空間。
しかも、すぐ側には知羽ちゃんの綺麗な髪の毛が。
ちょっと目を落とすと知羽ちゃんの背中......は、流石に近すぎてほとんど見えない。
汗が出てきそう、知羽ちゃんの香りを感じるの今日は二度目だ。
ドキドキドキドキ
ドキドキドキドキ
早く着いて欲しい様な、もっとこのままで居たい様な......。
そう思っていたら、どうやら到着した様だ。
ここは何処だ?
そ、空の上?
上からの景色は見た事がないが、見た事のある場所と言うか、そ、そうだ。
今は青空だけど、ここ家の近くの上空な気がする。
???
結局、何処にも行っていないのか?
だけど、移動する前は夜だったのに、朝みたいだな?
そう思っていたら、知羽ちゃんの掴んでいた、俺の透明だった手が、色がついてきて、腕、頭、身体と元の姿に戻っていってしまっていた。
知羽ちゃんがすごくビックリした顔をしている。
ち、近い。
透明の時より感覚が半端ない。
青空だから顔の赤さが隠せない。
こんな近くにいる説明が思いつかない。
知羽ちゃんの顔も赤くなった気がしたが、すぐに真顔に戻り、ムクさんの方を見ていた。
こんな冷たそうな知羽ちゃんの顔、始めて見たかも。
知、知羽ちゃん?
どうしたの?
なんか、怒ってる?
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