第40話 知羽ちゃん、近い、ち、近すぎる(優 視点)

『どうするの? 行くの?』


 ムクさんに急かせれ、俺は考える暇もなかった。

 だけど、考えている時間もない。

 俺は二つ返事で、了承した。


 知羽ちゃんを守る。俺には他の選択肢はない。



『じゃーまず、心だけの状態になるわよ。その前に、後、一つだけ、忠告しておくわ。もし、今回やその後の経験を経て、貴方に多少なりとも能力がついたとする。それで、心だけの状態に自分自身の能力でなる事が可能になったとしても、元に戻るにはもっと強いパワーがいるの。そのパワーの源がポジティブだったり、心がこもった優しい思いだったり、言葉なの』



 また、話が始まったぞ。急いでいるんだろう?


 でもお爺さんはポジティブしか、言ってなかったけど、心、こもった優しい思い、言葉だったら、知羽ちゃんも......。

 知羽ちゃんはあんまり自分の思いは話さないけど、人一倍優しい事を俺は知ってる。



 と言うか、パワーを貯めるは聞いていたが、能力がつく?


 俺も、知羽ちゃんも、普通の人間だぞ?


 生きているんだぞ?


 何か特別な能力を持つ事が可能だと言う事なのか?


 お爺さんも後継者を探していると言っていたものな。


『逆に、ネガティブ、負の感情、恨み、妬み、人を傷つける言葉はパワーを吸いとってしまうの。そして、一番ダメな事が諦めと言う気持ち』



 ムクさんは負の説明の時は、声を低くしたり、顔全体で意味を表現し、青いオーラが強く迫力がましていた。


 なんだか、こちらの方が、力が強そうに思ってしまう。


 俺は話を聞きながら、そんな風に思った。


『そうではないのよ。負の言葉に負けない様に出来るだけパワーを取られない為に面白、おかしく、なるべく早く、明るい気持ちで言っているのよ、貴方も知羽さんに負の言葉を出して説明する時はこんな言い方じゃないと、折角たまったパワーが減ってしまうから気をつけなさい』


 な、なんだと? それは恥ずかしすぎる。


 今までの俺のキャラと、違いすぎるんじゃないだろうか?



 何か別の言い方はないだろうか?



『ウダウダ考えてる暇は無いわよ。行くわ。準備は良い?』



 俺が頷いたと同時に、意識が一瞬、クラッっと無くなり、気がついた時には空の上だった。

 

 と言ってもそんなに高い高さではない。

 俺は屋根より少し上の所をムクさんと一緒に飛んでいた。

 



 ムクさんは俺の背中辺りの服を掴んでいて急スピードで飛んでいる


 直接、女性らしき人? に触られるのは緊張するから助かったが、服が少し突っ張る感じがして、下に落ちやしないか心配だ。


 まあ知羽ちゃんのアパートは俺の家の7軒先だからそんなにハラハラする間もなく、すぐ到着した。


 スピードが速いのと、顔に当たる風の強さとで、流石に怖かった俺はアパートの、知羽ちゃんの部屋のある出窓の外で、プカプカ浮かびながらホッと息を吐いた。


『そんなに心配しなくても、貴方は今、心の状態だから服が破れたとしても落ちる事はないわ。そもそも心の状態なら服も破れないし、貴方も一人で浮かぶ事ができるしね』


 そう言いながら、ムクさんはクスクス笑い、俺の服から手を離していた。


 お、落ちる。



 俺は慌てて、足をバタつかせたが、落ちる事はなく、本当にプカプカと浮いていた。



 出窓から知羽ちゃんの部屋の中が見える。


 知羽ちゃんも心の状態なんだよな?


 俺は出窓に近づき中を覗き込んだ。




 知羽ちゃんが、天井に近い所で、浮いている。と言うか先程の俺みたいに足をバタつかせて慌てているのが見える。


 知羽ちゃんのすぐ横にチビもいて、近くにフワフワ浮いている、透明な丸いものも見える。


 

 チビもいる?


 チビも心の状態なのか?



 まだ知羽ちゃんは足をバタつかせている。



 急がないと、知羽ちゃん。怯えてるよ、絶対。



『待ちなさい。マルちゃんが、知羽ちゃんを何処かに連れて行こうとしているわ。今、止めたら、強行突破されて、更に危ない状態になってしまうかも』



 ムクさんが、無表情になり、青いオーラが強くなった。



 真剣な顔で俺の頬へと手を伸ばした。


 俺はムクさんに触られて、全身が冷たくなった様に感じた。


 女性に触れられるから、ドキドキするかと思ったが、やはり俺は知羽ちゃん以外から触れられても、何も感じなかった。



 ムクさんは触ると言っても、いやらしい動作ではなく、作業といった感じで俺の頬の他にも頭に腕、足などあらゆる所に触れる。



 触れるたびに、キーンと頭に冷たさが響く様だ。



 そして、数分後には俺の身体は透明になっていった。


『これで大丈夫よ。早く知羽さんの元に行くのよ! 急いで。マルちゃんが移動を始めてしまうわ!』



 切羽詰まったムクさんの声に、俺は急いで知羽ちゃんの元に向かった。


 窓をすり抜ける時、目をつぶってなんとかすり抜けた。


 これがムクさんが言っていた、ゾワッとする感じか、確かに気持ちが悪いな。


 慣れるまで時間がかかりそうだ。



 俺にはまだスピードを出して飛ぶ事は難しかったが、空を走る様に懸命に足を動かして、何とか知羽ちゃんの背後にたどり着いた。


 その時、凄い強風とともにムクさんも俺の背後に来て、またもや俺の背中部分の服を摘む様に持った。


 その風とムクさんの動作にびっくりして俺は思わず知羽ちゃんの肩を掴んだ。



 知羽ちゃん。肩までなんだか柔らかい。


『絶対、知羽さんを離しちゃダメよ? マルちゃん、か、私、どちらかに繋がってないと、マルちゃんが貴方達を何処に連れてっているかは分からないけど、下手したら放り出されるかもしれないわ』



 俺は、知羽ちゃんを守る様に、しっかりと肩を掴む。


 その時、何の前触れも無く知羽ちゃんが、振り向いた。


 俺の唇、1cmぐらい前に知羽ちゃんの前髪がある。



 ち、知羽ちゃん。



 近い、ち、近すぎる。


 

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