第38話 急げ! 知羽ちゃんは俺が守るんだ(優 視点)

 ムクさんの格好は細身のパンツスーツといった清楚な見た目で、掠れ声、気怠そうに喋る感じが、ギャップというか、かなりアンバランスだった。



 声の感じから、かなり露出の激しそうなスタイル抜群の女性が頭に浮かんでいたが、実際は細身で、胸も小さく、感じの良い働く女性と言う見た目だった。



 た、頼れるかも知れない。



 だけど、こんな夜に女性? を部屋にあげても良いのだろうか?



 まあ知羽ちゃんの為だし、こんだけ、歳の差が、離れていたら(と言っても歳を知らないが)とにかく、そういう対象から外れるだろう。



 だいたい、俺は知羽ちゃんしか、そもそも興味はないし、なんとも思わない......多分。



『早く開けなさいな。結構、風が強いのよ』



 そうムクさんに強めに言われ、俺は反射的に身体が動き、鍵を開け窓も開けた。


 よっこらしょっと言うかけ声とともにムクさんが部屋の中に入ってきた。


 入ってきたと同時に強い風が吹き、ムクさんの髪が靡いている。


 何となく薄っすらと青いオーラみたいなモノも見えて、下手したら幽霊の様にも見える。



 しかし、ムクさんの登場から何となく俺の頭には???マークが浮かんでいた。



 死神って、普通、自由自在に入ってこれるもんなんじゃないか?

 と言っても、それも俺の想像だけの話なんだけど。


 なんか、思ったより、かなり人間くさいんだが......。



 死神さんって皆、こんな方ばかりなのだろうか?



『随分、失礼なモノ言いね、心の声も全部聞こえるんだから、発言に注意しなさいな。人が、仕事を新人に押し付けてまで駆けつけてやったっていうのに、本当にもう。無事、そっちの事も上手くいったら私の事も手伝いなさいよね』



 ムクさん、突然来といて無茶苦茶な事を言っている。



 俺は顔を引きつらせながら、ムクさんに、クッションを勧めた。



『あらっ、ありがとう。まあ、言い訳をさせてもらうと、もちろん、私達、死神は移動し放題だし、通り抜けも、簡単にできるわ。だけどね、あの、壁を抜ける時、自分の肌と重なる時、私はかなり鳥肌というか、ゾワっとして気持ち悪いのよね』


 と言いながら、ムクさんはウンウンと頷いている。



 この人も良く喋るな。


 今、緊急事態じゃないのか?

 こんなにこの人、いや人じゃないか、ムクさんの話を聞いている暇はないんじゃないのか?



 知羽ちゃんが心配だ。


 大丈夫か?


 ま、間に合うのか?

 

 


 俺はハラハラする気持ちを抑えられず、額からジワリと汗も出てきていた。





 だけど、死神なんだよな?


 口答えするのも恐いな。


 鎌とか持っているイメージだけど、何も持ってないな?



『貴方も良く喋るじゃない。喋ってなくても聞こえているわ。大丈夫、ちゃんと向こうの事も見えているし、一瞬でそこにも行けるから。困った事に、パワーチャージ球体はね、色々な事ができるの。だけどね、今回、ええと、知羽さんと言ったかしら? パワーを貯める手段の為に彼女の心と身体を引き離しちゃったみたいなのよ。何を考えているのかしら。だけど元に戻すにもそれ相応のパワーが要るはずよ。どうやって貯める気かしら。嫌な予感しか、しない』




 えっ!!



 ど、どういう事だ?



 心と身体を引き離すって、お爺さんにもされたと思うんだか、あ、アレはお爺さんがした訳じゃなかったんだっけか? とにかく、元に戻すのはそんなに難しい事なのか?



『運爺さんや私達、死神なら、造作ない事なんだけどね。パワーチャージ球体、知羽さんはマルちゃんと名付けていたわ。彼はちょっと使い方に注意がいるから運爺さんもあまり使用していなかったみたいなの。それも加わって、マルちゃんは成長が足りてないというか、考えが少し幼いのよ』



 少しだけ焦っているのかムクさんはかなりの早口で喋っている。俺も聞き取るのがやっとだ。



『とにかく、急がないと、貴方も行く? 少し危ないかも知れないけど貴方の力も必要かも知れないわ。大丈夫、心だけにもなる必要があるけど、私ならすぐに元に戻す事ができるから』



 それってかなり、やばいんじゃないか?


 


 ムクさんから聞いた内容を心の中で整理しながら俺は焦りまくっていた。





 もし、マルちゃんとやらが無茶をしてしまったら知羽ちゃんは戻ってくる事ができるのか?




 考えている余裕なんてない。



 俺の選択肢は知羽ちゃん、一番だ。



 知羽ちゃん。


 すぐ行くからね。



 無茶しないで。


 俺は、知羽ちゃんに、まだ、大事な事、何一つ伝えていない。




 俺が知羽ちゃんを絶対、守るんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る