第37話 なんで俺、こんな大事な事、忘れてしまってたんだよ(優 視点)

 あの不思議な現実から目を逸らしたい気持ちもあったが、緑のチカチカした光に焦らされ、俺はお爺さんのスマホをもう一度手に取り、パスコードを入れた。



 トップ画面にメール、一通となっている。


 俺は、ちゃんと日本語で書かれていて、ほっとしながら画面に目を向けた。


 



 良かった。

 まあ、美少年もお爺さんも日本語を話していたしな。


 それか、都合良く、話が通じる様に聞こえるとか、読めるとか、そう言う事だろうか?



 まあ、嫌な予感しかしないけど、見てみるか......。

 



 恐る恐る、俺はメールのアイコンをタップした。



メール内容

【無事、このメールを見る事ができたかのう? 

このスマホの使い方が分からなかったら、?マークのアイコンがヘルプ機能になっておるぞい。 

おっと、こんな事を言っている場合ではないわい。緊急事態じゃ。


あの、お主と一緒におった、少女なんじゃが、ワシの中にあって使ってなかった、パワーチャージ球体と言うものがあるんじゃが、

ワシの中の奴が、ワシがちょびっとだけ、眠っている間に少女に渡して埋め込んだらしいんじゃが、知っておるかの? 


その球体はワシが元々持っておったモノだから悪い奴では無いんじゃが、

頑張りすぎる悪い癖があっての。


ワシの中の奴は良かれと思って少女に渡したらしいんじゃが、パワーチャージ球体、少女はマルちゃんと名前をつけたらしいんじゃが、


そやつがな、少女が余りにネガティブなもんだから焦ってしもーたみたいでな。


何かやらかしそうなんじゃ。


ワシはそっちには行けないが、ワシの知り合いに死神のムクというのがおるんじゃが、ソヤツの番号を教えるからかけてみてくれ。



急ぎじゃからな。



何かあってからでは遅いんじゃからな。



ワシ、あの一瞬、なんで意識飛んでしもたんじゃ。



パワーチャージ球体はちーと子供なんじゃ。


良い子なんじゃが後先考えんのじゃ......。】




 その他にもメール内容はかなり長い文章で書かれていたが、重要そうな所は死神のムクさんの番号ぐらいで、後は読まなくても差し支えの無い内容だった。



 ど、どう言う事だ?



 パワーチャージ球体?



 なんじゃそりゃ。



 少女って知羽ちゃんの事だよな?



 その時、俺の頭の中に、美少年が透明な球体を知羽ちゃんに渡し、それが知羽ちゃんの掌の中に吸い込まれる映像が浮かんだ。




 ............。




 そうだった。




 そうだったじゃないか、なんで俺、こんな大事な事、忘れてしまってたんだよ。



 知羽ちゃんは大丈夫なのか?



 何やってんだ、俺。



 ええと、どうしよう。



 お爺さんのメールによると死神のムクさんが助けになってくれるんだよな?




 ......。




 し、死神?




 連絡とっても大丈夫なのか?



 俺、連絡取ったが最後、あの世に連れてかれてしまわないか?




 だけど、あの不思議な空間でお爺さんから聞いた、死神の話。



 随分、俺の考えていた死神の印象と違ったんだよな。




 本当の死神さんは優しいのかも。





 そうは言っても、やはり恐い。




 俺の心拍数は少しずつ上がっていった。







 だけど、このメールの内容から、急がないと、このままじゃ、知羽ちゃんが巻き込まれて危ないかもしれない事は伝わってきた。




 たかが、電話じゃないか、根性みせろ、俺。




 俺は死神のムクさんの番号を登録しようとも思ったが、時間もないし、まだ操作方法も分かってなかったのもあって、机の引き出しに入ってあった、メモ帳を取り出して、そこに番号を書き写した。



 そして、指を震わせながら、丁寧に間違えない様に数字をタップしていった。




 番号を押し終わってスマホを耳にあてた。



 コール音が一回、二回と続く。



 俺は緊張で、どうにかなりそうだった。



 


 俺の喉がゴクリとなる。




 その時、電話口から、ちょっとカスレ声のお姉さんっぽい高めの声が聞こえてきた。



『何? 運爺さんかい? 今、取り込み中なのよ、またにしてくれないかい?』



 大人っぽい女性の声に、俺はびっくりして一瞬言葉を失ったが、何とか勇気を出して、声を発した。



「え、ええと、忙しい時に、ごめんなさい。お、俺は笹山 優と言います。あ、あの、運命の、ええと、なんだっけ? ちょ、調整人のお爺さんから、紹介されて、え、ええと」


 そんな風に俺が辿々しく喋っていると、クスクスとお姉さん、ムクさん? が笑い出した。



『ごめん、ごめん。ちゃんと、運爺さんから聞いてるわ。状況も私には、すぐ調べれるから大丈夫よ』



 そう言いながらも、所々で、クスクスと笑っているムクさん。



『ん、笑い事じゃないかもしれないわね、まどろっこしいから行くわね』



 ムクさんはそう言って突然、電話を切ってしまった。


 

 えっ? き、切れちゃったよ。


 折角かけたのに。

 ど、どうすれば良いんだ?



 俺はスマホを手に持ったまま、立ち上がり、出窓の所まで歩いて窓から見える星を見ながら途方に暮れそうになっていたら、目の前の、窓を挟んで向こう側に、髪の長い女性が呑気そうに浮かびながら手を振っていた。


 も、もしかして死神のムクさん?




 


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