第36話 緑の光までチカチカと。なんだよもう(優 視点)
知羽ちゃんを家に送った後、俺は急いで自分の家に向かった。
走るにつれて呼吸は浅くなっていく、しかし、普通、走ると心臓の音も早くなるだろうに、逆に少しづつ落ち着いていく様に感じた。
トクントクン。
心拍が少しづつ正常になっていく。
顔や身体が熱かったのも少しづつ、少しづつ、正常に近づいてきた。
お爺さんの言っていた通りだ。
心臓の音が激しいのも、顔や身体が熱いのも、知羽ちゃんが近くにいる時だけだ。
自宅に辿り着く頃には、俺の身体の状態は、すっかりいつも通りに戻っていた。
この夕方から夜にかけての出来事が夢であったかの様に。
俺は確かめる為にも、もう一度、ズボンのポケットの膨らみを触り、指で、腰に巻いている上着を少しずらした。
お爺さんから受け取ったスマホがチラッと見えて、その周りをポワポワと包む薄ピンクの優しい光が見えた。
うん。
確かに現実だったんだ。
知羽ちゃんとの、あの接近した出来事も全部。
俺はあの空間での事を思い出してしまい、また顔が熱くなりそうになった。
そんな、身体の熱を慌てて冷まそうと、お爺さんの低い渋い声を思い出し、オマケにお爺さんが、言っていた親父ギャグも思い出してしまった。
......。
気を取り直し、ピンクの光をまた上着で隠し、玄関の扉を開いた。
ガチャンと簡単に扉は開いた。
お爺さんが言っていた様に、あの空間での時間は本当に止まっていたみたいだな。
あんまり遅いと、母さん、怒って鍵かけちゃうかもしれないもんな。
それかその前に、スマホに何回も電話かメールが入るよな。
俺は、自分自身のスマホも、お爺さんのスマホが入っているのと反対側のポケットに、入れていた。
俺は人に話を合わせる所が多く、相談しやすいのか分からないが、友達が多かった。
そんなに仲が良い訳ではないと思うんだが、色々な奴のアドレスが、このスマホには入っていた。
ぶっちゃけ、このスマホには家族と知羽ちゃんのアドレスだけで良いと思う。
友達が嫌いとか煩わしいとか、そんな風には思わない。
だけど、俺の中では他がどうでも良くなるほど知羽ちゃんの存在が大きかった。
だが、実際は、そのどうしても知っていたい、知羽ちゃんの携帯の番号もメールアドレスも俺は知らなかった。
なんでも喋っていた、あの幼かった頃、俺達はまだ、携帯は持たされていなかったんだ。
簡易的な、お菓子の箱を工夫して作った、ちびっ子の頃の俺特製、携帯電話なら、知羽ちゃんにも一台、俺も一台持ち、よくそれで電話をかける真似事をして遊んだものだ。
話がまた横道にそれてしまったが、家の中に入ると、お母さんの声がした。
心配もしてないみたいで、知羽ちゃんの事を気にしていた。
また遊びに来て欲しいとも。
それが出来るなら俺がとっくに誘っているよ。
だけど、知羽ちゃんがウチに遊びに来なくなってから随分経つんだ。
昔は簡単に出来た事なのに、日にちが経つにつれてどんどん誘えなくなってしまったんだ。
お母さんがご飯も出来ているし、お風呂も入る様に言っているけど、俺は適当に言い訳をして、まずは二階の自分の部屋に入ってベッドに腰掛け、上半身だけ寝転がった。
まずは自分のスマホを開いてみた。
何通か友達からメールが届いていた。
俺は軽く返信した後、それはベッドに置いて、問題のお爺さんから貰ったスマホを取り出した。
ピンクの光に少し黄色が混じっている。
なんだ? なんだ?
慌てて俺はパスコードを入れて画面を開くとメールが届いている事に気がついた。
えっ?
メール?
誰から?
お、お爺さんからかな?
なんだろう。
まだ色々整理したりしてないし、このスマホも、も扱ってみてないのに、もう何かあったんだろうか?
それとも取り扱い説明書でも送ってくれたのかな?
お母さんが喋りたそうだったし、先にご飯食べて、メールは見なかった事にしようかな?
そんな事を思っていると、早く見ろと言わんばかりに緑色の光まで加わりチカチカし始めた。
もう、なんなんだよ。
まだ全然、ゆっくりしてない。
今日は心臓が忙しかったり身体が熱すぎたから少しゆっくりしたかったのに。
お爺さん、一体、何を送ってきたんだ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます