第35話 チ、チビ? 今、なんて言った?
私はフワフワと浮いたまま、物思いにふけていました。
危ない状況かもしれないのに、呑気でしょうか?
なんでしょうね。
この空間、下に自分の姿が見えているのに、全然怖くありません。
やはり、あのマルちゃんの糸目なのと、あまりに優しいノンビリ口調のせいでしょうか?
............。
夢じゃなかったんだな......。
あの、今日の散歩での出来事が事実だったとしたら、明日、どんな顔して優君にあったら良いんだろう。
私は今、心だけの状態なんだよね?
だけど、心臓の音、大きいよ。
本当にあった出来事って自覚したら、優君がすぐ側にいたあの時の、感覚と言うか、感触が鮮明に甦ってきました。
優君、そう言えば、本当だったとしたら家に帰り着く前。なんだか、急に、素っ気なかったな。
なんでだろう?
私もあの時、どんな態度だっただろう?
ちゃんと話せてたのかな?
優君、あの時、何を考えてたんだろう?
あの空間が本当だったって優君分かっているのかな?
素っ気ない感じはしたけど声のトーンは優しい、いつもの優君な気がした。
だけど本当だったのなら、体調は大丈夫だったのかな?
体調、やっぱり優れなくて我慢してたんだろうか?
だったらどうしよう?
『そろそろ喋っても良いですか?中々、ポジティブゲージ、ネガティブゲージといったりきたり、揺れていますね。本題に移りますよ?』
マルちゃんの言葉を聞き、私はフワフワと浮かぶマルちゃんを見ました。
早く説明して本題に移りたかったのか、マルちゃんは少しだけ困った顔をしています。
ポジティブゲージ? ネガティブゲージ?
なにそれ?
さっき音が鳴ったアレのこと?
『音は余りに僕の頭に響くのでスイッチを切りました。だけど僕の口の下当たりに二つゲージがあるのが見えますか? 黄色のゲージがポジティブ、青のゲージがネガティブです。今はネガティブの方がかなり多いでしょ? 普通に生活していても力は全然たまらないと思ったのですよ』
確かに。私はかなりのマイナス思考です。しかし、平凡な私が自分の事に自信がもてるなんて難しいと思うのです。
あっ、瞬く間に青いゲージが増えてしまいました。
『やはり、このままではパワーを貯める前に僕の方が弱ってしまいます。あっ、そう言えば、色々と心配してましたよね? お母さんに怒られるとか。先程も言った様に、時間を止めたままなので大丈夫ですよ。ちゃんと、始めに止めた時間の所まで戻れます。お風呂はその後にどうぞ』
なんだか私の考えがマルちゃんに読まれているようです。
まあ口に出していても、いなくても、心だから一緒なのでしょうか?
だけど、マルちゃんの話を聞いて安心しました。
私は眠る事が大好きです。
睡眠時間をたっぷり取らないと、日常生活でも眠くなってしまうんです。
それに、今日は沢山、汗をかきました。
明日も朝、いつも通りなら優君と一緒に通学します。
汗臭かったら、恥ずかしくて、隣を歩けなくなってしまいます。
後、夕方には、また一緒にチビの散歩に行けるんでしょうか?
今から楽しみです。
あっ、黄色ゲージが上がりました。
『では、行きましょうか?』
そう言って、マルちゃんは私の手を掴みました。
と言ってもマルちゃんの手は小さいので私の右の人差し指を握っていると言う感じです。
「ワン、置いていかないで欲しいんだワン」
私の背後から、聞き慣れている声なのに、あり得ない言葉が聞こえました。
チビ? 今、なんて言った?
チ、チビが喋ってる。犬語じゃなくて、に、日本語を。
私は、ビックリして、声を失いました。
「チ、チビ?」
嬉しそうに尻尾を振りながらチビが私の肩に手を乗せました。
「知羽ちゃん、知羽ちゃん、大好きだワン、ずっと言いたかった。喋れて嬉しいワン」
チ、チビ、喋ってる。
大好きなんて嬉しい。
私も大好き。
だけど、ビックリし過ぎて上手く声が出ない。
『僕だけ、このケモノの言葉が分かるのも、ちょっと都合が良くなかったですし、知羽さんのポジティブゲージも上がりやすくなる様な気がしましたので、心だけの状態の時の、このケモノの言葉を知羽さんにも分かる様に日本語に聞こえる様にしました』
マルちゃん。結構便利だね。
確かに、チビに大好きなんて言われて、私の胸がポカポカしてきて、マルちゃんに着いている黄色ゲージも上がってきました。
これから何もするのか分からないけど、チビと喋れるのは嬉しい。夢みたい。
私はこれからどんな大変な事が待ち受けているのかも分からないで、舞い上がっていました。
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