第32話 暗くて良かった。俺、今、耳まで真っ赤な自信ある(優 視点)


『と、いう訳なんじゃ』



 と言うお爺さんの話に頭がコクッと傾きそうだったのを何とか我慢し、目をしっかり見開き、ウンウンと俺は、ちゃんと聞いていた様に見せた。



 その瞬間を見られていたのか、お爺さんは苦笑いをこぼしている。


『まあ、ちーと長かったし、年寄りの話なんか面白くもないよのう』


 と、お爺さんは、小さい棒切れで地面にイジイジと書きながら寂しそうに笑う。



      


 ち、違うんだ。

 ちゃんと話を聞いていたよ?


 


 だ、だけどな、このお爺さん、途中、途中で話は脱線するし、親父ギャグも挟むし、小難しい説明も挟むしな。



 俺は精神年齢が高めと言っても、小学六年生だ。


 校長先生の話が眠くなるアレだよアレ。



 だけと、ポイント、ポイントはしっかり聞いていたよ?


「えっ? ちゃんとしっかり聞いてましたよ?」


 そう、とぼけてみたが、ジトーと、目を細めお爺さんが見ている。



 だ、大丈夫だって、大事な所は、聞いていたんだ。


「つまり、お爺さんが昔、恋をした事でマイナスな感情も知ってしまって、仕事がこなせない程、力を失い、あと、お爺さんの身体の中には違う存在がいるって事でしょ?」


 ......。



 一瞬言葉を失うお爺さん。


『まあ、簡単に、言えばそうなんじゃが、ひ、一言で言われてしまって、なんだか、悲しいのう。それに大事な所が抜けている気がするが、本当に聞いていたかね? ああ、それでじゃな、ええっと』



 お爺さんは一瞬だけショックを受けた様な顔をしたが、すぐ、気を取り直して自分の持ち物である巾着袋から何かを取り出した。



 見た感じ、スマホみたいだ。



 ここって電波とかはどうなってるんだ?



 空間が別次元なのかな?



 俺達は今、心だけらしいし。



 また、少し不安になった俺は、安定した寝息をたて、柔らかい表情で眠る知羽ちゃんを見て安心し、ペロッと長い舌で俺の指を舐めたチビの頭を軽く撫でた。



『ほれっ』


 そう言ってお爺さんはそのスマホを俺の方に差し出した。


 俺も、ちょっと身を乗り出し、そのスマホを受け取った。


 そのスマホは周りをフワフワとピンクの光が覆っていて不思議な感じだ。


 これ見られたらヤバイやつか?


 


 ぱっと見、普通のスマホだけど、見た事ないメーカーだ。

 

 だけど、最新っぽいな。


 俺は受け取ったスマホの裏などを観察していた。


『ワシとの連絡はそれで取れる。と言ってもワシの中のモノの気がそれた時や、ワシの力がソヤツをちょっとでも上回った時しか、ワシの意識を出すことが難しかったりするからしょっちゅう連絡は取れんのじゃ。不便かもしれんな』


 それって俺、どのタイミングで電話をかけたら良いんだ?


 俺は謎な携帯を見ながら、困った様に笑った。


『ちなみにパスワードは000011じゃ。数字は特に意味はない。語呂合わせも考えたんじゃが、忘れてしまうからな。セキュリティーは、ちっと甘いかもしれんが、ワシが許可したもんしか、開けん仕組みじゃ。電波はワシが若くてパワーに溢れていた時に上手いこと少しの力で生み出せるような仕組みに設定しておいたから何処にいても、そのスマホからは連絡できるんじゃ』


 それって、パスワードつけなくても良かったんじゃないか?


 俺は、少し疑問に思い、そのお爺さんの話を聞いていると、目を一瞬閉じるような、身体の力が一瞬抜けた様な感覚を味わった。


 



 




 俺は気がつくと、知羽ちゃんが左側を歩いていて、その隣にはチビがいた。


 外は先程より暗く、月や星は見えない。


 俺は顎に手を当てながら軽く辺りを見渡した。


 家に近い所みたいだな。


 あの、塀から飛び出してある木は見覚えがあるし、あそこの角を曲った所には公民館もあるはずだ。


 お爺さんの話が本当なら、俺達の身体とか時間は止まっていたって話だから、あの散歩途中に戻った。って、事だよな?


 良かった。

 ちゃんと戻れたんだ。


 知羽ちゃん、元気そうだ。


 チ、チビは早速、オシッコか?



 電信柱に向かって後ろ足を片方だけ上げてオシッコをするチビを二人で見守っていた。



 チビ、オシッコ我慢させてしまっていたのかな?


 それとも心だけの移動だから大丈夫だったんだろうか?



 だけど、やっと普通に戻れたんだと俺は実感していた。



 



 普通に、戻れたはずなんだけど、なんか、いつもみたいに知羽ちゃんの顔が見れない。


 鼓動がやっぱり早くてソワソワしてしまう。


 

 知羽ちゃんを見てしまったら、唇や頬、鎖骨部分、色々な所を直視してしまいそうだ。



 暗くて良かった。



 俺、今、絶対、耳まで真っ赤な自信ある。

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