第30話 話の続きはまだかな? 知羽ちゃんに早く会いたい(優 視点)

『では、話し出しても良さそうかの?』


 


 お爺さんはニコニコしながら俺があたふたする様子を見ていた様だ。


 


 何だか恥ずかしくなって下をちょっとだけ向いた俺だったが、お爺さんを見ると真剣な表情になっていたので、ちゃんと聞かなきゃと思い、もう一度深呼吸して心を落ち着かせた。


 チビは今回は大人しく、俺の隣に座り、尻尾をフリフリさせている。


 チビ、お前はいつも幸せそうだよな。だけど、お前も何か考えているんだよな?


 


 おおっと、俺はすぐに考えが脱線してしまう。

 


 ポリポリと自分のコメカミ部分を軽く掻いて、もう一度お爺さんを見た。

 

 お爺さんと目が合い、お爺さんは目を細めて笑った。

 

『何処まで話したんじゃったかな? あっ、そうそう。ワシはもう、いい年と言う話じゃったな。力が弱まったのは年のせいもある。じゃがな、ワシの心の変化も原因かもしれん』



 そう言ってお爺さんはお茶をもう一口すすった。


 

 お爺さんのお茶をすする音、周りの優しい柔らかい光。俺達を包む辺り一面の空気がとてもほのぼのとしたものに思えた。


 

 

 話、長くなりそうだな。  


 お爺さんの話を聞きながらも、どうしても俺はチラチラと知羽ちゃんを見てしまう。

 知羽ちゃん、眠ってるんだよな? ほっといて本当に大丈夫なのだろうか?

 知羽ちゃんの事を見ていると、頭がまた何も考えられなくなってしまう。

 

 なんとか、チビの方に目線を移すと、チビもお爺さんの、のんびりペースの話にもう、飽きてきたのか、伏せをして欠伸をしている。


 俺はチビの頭を軽く撫で、お爺さんの話に耳を傾けた。

 だけどお爺さんは話始めようとせずに、何かを思い出しているかの様に空を見上げた。


 木々に囲まれてはいて少し影にはなっているが、いつのまにか、青空が広がり、お爺さんの淡い光が重なって、心地よい空気に包まれている。


 葉のカサカサ鳴っている音も優しい音に聞こえた。



 俺達の身体はあのまま、止まっているという事は、ココは一体、どんな空間なんだろうな。


 不思議すぎるが、なんだか受け入れてしまっている自分がいて、変な感じだ。

 


 美少年の時はとても胡散臭く感じたのに、お爺さんだと、あの優しい表情のせいかな? なんだか安心してしまっている自分がいた。


「ええと、お爺さんの心の変化ってどういう事? ココには、俺達みたいに人が迷い込んでくる事はあるの?」


 お爺さんが何かに思いをはせているようで話が進まないので、痺れを切らした俺は、そう尋ねた。


『フー、すっかり、昔の記憶に飛んでしまっておったわい』


 申し訳なさそうに、お爺さんは笑いながら話を続けた。


『ここに、人が迷い込むことはほとんどない。何故お主達はここに来ることが出来たんじゃろな。じゃがな、だからこそ、ワシはこのチャンスを逃せないと思ったのじゃ』


 そう言ってお爺さんは、またお茶をすすった。


『すまないな。年寄りは喉が渇くんじゃ。お主は大丈夫かのう? これで良かったら飲むかい?』


 そう言って、お爺さんは自分が飲んでいた水筒の蓋に注がれたお茶をオレに渡してきた。


「大丈夫です。続きを聞かせて下さい」


 俺は苦笑いをしながらそう断った。


 チビが俺の手をペロペロと舐めている。


 ひょっとしてチビは喉が渇いたんだろうか?

 それとも、チビも、心だけと言う事は喉も渇かないんだろうか?



 だけど、俺はこの空間に入って身体の感覚がかなり過敏になっている気がする。


 まあそれは、さっきの話からしてみれば、お爺さん? 美少年? の力が関係しているんだろうけど。


 過敏と言っても、知羽ちゃんが関わっていなければ、そんなに気持ちの変化はない気がした。



 ......。




 ......。

 

 


 お爺さん、話の続きはまだですか?


 さっきから全然話が進んでない気がする。


 尋ねてくる人が居ないって事は会話するの久しぶりなんだろうか?


 寂しいのかな?



 さっきの美少年姿の方が怖かったけど、もっと話はテンポ良く進んだ気がする。


 知羽ちゃん。


 お爺さん、なんで知羽ちゃんだけ先に帰したのさ。


 ひょっとして、美少年だと思われたかったのか?


 お爺さんとバレるのが嫌だったのか?


 分からないけと、知羽ちゃん。

 

 早く知羽ちゃんに、眠っている知羽ちゃんじゃなくて生身の知羽ちゃんに会いたいよ。



 お爺さん? つ、続きはまだかな?

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