第28話 知羽ちゃん、眠ってるの? ......柔らかそうだ。(優 視点)

 俺が変な美少年を睨みつけていたら、知羽ちゃんの身体の力が抜けた。

 

 俺は慌てて知羽ちゃんの身体を支え知羽ちゃんの手からチビのリードを持つ手が緩まったのを見て、慌ててリードを掴んだ。

 

「クゥーン」


 チビが心配そうに知羽ちゃんの周りを行ったり来たりしている。


 柔らかい知羽ちゃんの身体は、力が抜けているからか結構重たい。


 

 知羽ちゃん?


 どうしたんだ?


 大丈夫なのか?


『心配しなくても大丈夫じゃ、ちょっと眠ってもらった。お主に話があったからな』


 眠っているだけか。

 ちょっと安心した俺は、知羽ちゃんを支えながら自分の腰に巻いている上着を地面に敷き(チビのリードも持ちながらだったから結構大変かもだった)そこに知羽ちゃんを座らせた。


 知羽ちゃんを座らせた後ろに丁度大き目な岩があったのでそこにもたれかからせた。


 


 背負っても良かったが、俺の心臓がもちそうになかったからな。

 知羽ちゃんからは何だか分からないが良い匂いがしてどうしても俺の心臓がバクバクしてしまうから。


 そして、もう一度、美少年、運命の調整人と言っていたか? そいつを睨みつけた。


「それで、どういうことなんだ? わざわざ知羽ちゃんを眠らせてまで俺に言いたい事があったのか?」


 そう俺が言っていると、美少年がすごく大量に汗を掻き出した。


 少しだけ苦しそうにも見える。


 また一瞬、美少年の身体が揺ら揺らと透明になり、そう思っていたら、また、少しずつ色がつき始める。


 そして目の前には身長150cm、丁度、知奈ちゃんぐらいの背の高さのお爺さん。シワくちゃなお爺さんがそこにいた。


 癒しの様な独特の空気が流れており、匂いも線香の様な独特の香りがした。


 俺は、どういう事がわからず軽く目を押さえ、状況を把握しようと周りを見渡した。


 光は相変わらず有るものの、少し弱く、だか、優しくなった気がした。



『見苦しい姿を見せてしまったのう。喋りかたから気づいておったかも分からんが、この姿がワシの本来の姿じゃ。もうワシも結構長い間、この仕事を一人でしておっての。まあ、中々やりがいのある良い仕事じゃとは思うがな。』


 そう言いながら、元、美少年な優しい顔のお爺さんは知羽ちゃんの座っている隣に腰かけ、小さく溜息をついた。


 俺もお爺さんの隣に腰かけた。


「あの、ええと。話を遮ってごめんなさい。知羽ちゃん。眠っているだけ、なんですよね? 大丈夫なんですよね?」


 お爺さんは続けて喋ろうとしていたが、ピクリとも動かない知羽ちゃんに俺は慌てて聞いた。


『そりゃ、お主の大事な人じゃからな、心配よのう』


 お爺さんは、少し、懐かしいそうに昔を思い出しているかの様に目を細め、柔らかく笑った。


『大丈夫じゃ。この空間はな、時が止まっておるのじゃ、今、お主もその少女も、そこのワンコも、身体はこの空間に迷い込んだ所で時が止まっておっての、今は、身体の奥底にある心の部分、魂とでも言ったらよいかのう。その心の部分が動いておったのじゃ』



 その説明、知羽ちゃんにも聞かせてあげたら良かったのに。


 俺は中々、信じる事は出来なかったけど、今、目の前で見せられた不思議な出来事、自分の身体の変化、状況的に納得せざるを得なかった。


『そして、この少女には先に身体に戻って、まだ一時的に心も眠ってもらっておる。お主の心も身体に戻った所で再び、元通りに時間が動き出すじゃろう』


 お爺さんの話が本当かどうか分からないが、先程の変な美少年の見かけよりも、貫禄もあり、何だか信用もできる気がしていた。


 俺は少しホッとしていた。



 ちゃんと戻れるんだ。

 知羽ちゃんと一緒に。


『だかな、やはり感覚としては夢だったと思う方が普通じゃろうな。実はなさっき話の途中になってしまったが、ワシはもうこんな見かけじゃ』

 


 そう言いながらお爺さんはチビの頭を優しく撫でた。


 チビが気持ち良さそうに目を話に細めた。


『昔は動物達も恐がるほど、力もあったんじゃがな。少しづつ力も減ってきてしまった。実はな......。ワシは後継者を探しておってな......』



 ど、どういう事だ?


 こ、後継者?



 ま、まさか知羽ちゃんを?

 それとも俺?




 まだまだ話は長そうだな。


 知羽ちゃん。


 本当に大丈夫なのかな?



 早く知羽ちゃんの笑った顔を見て安心したい。

 


 ちょっと待てよ?


 今の知羽ちゃん。

 身体も止まってるし、心も眠ってるんだよな?


 ま、まさか、ちょっと触ったりしても分からないという訳か?


 

 俺がリードを持っているが、チビは知羽ちゃんの側に行き、知羽ちゃんの頬を舐めている。

 チビはいいな。やりたい放題だよな。


 俺もチビの側に行くフリをしてお爺さんが座っている反対側である知羽ちゃんの隣に腰かけなおした。



 ふっくら頬が柔らかそうだ。


 まつ毛、長いなー。

 唇も可愛い色で柔らかそうだ。


 俺、あんまり考えるな俺よ。

 また身体がおかしくなるだろう?



 俺は再び、胸がキューと苦しくなって、顔も熱く、心音も大きくなる。



 現在、俺達は心だけらしいが、身体的にもかなりリアルだな。

 

 おーっと話している途中にまた考え事、しちまった。


 大事な話しているみたいなのに。


 ちゃんと聞かなきゃな。



 俺は覚悟を決め、お爺さんの話に耳を傾けた。


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