第26話 な、何? アナタ喋れるの?
お母さんと二人で遅めの夕食を取った後、私はチビと一緒に自分の部屋に入りました。
なんだかんだで家は、そんなに貧乏でもなく、恵まれていると私は思います。
ちゃんと私自身の部屋を貰っているのですから。
寂しい時もあるけど、それだけお母さんが頑張ってくれてるんですよね。
私の後に続いて部屋に入ってきたチビは早速私のベッドに上がろうとしていました。
チビの動きでどこに行こうとしているか、すぐ分かります。
チビ、ちょっと待っててね?
私は部屋に入る前に、洗面所に行き、タオルを濡らして絞ったものを持ってきていました。
チビがベッドに上がる前に、素早く、と言っても私は運動神経が良くありません。なんとかチビの背後から忍び寄り、濡れタオルで優しくチビの身体や足を拭きました。
チビも大人しく拭かれてくれます。
家に来た当初は、チビもかなり抵抗していて、というか遊んでいるのと勘違いされて、バタバタしているうちに、ベッドの上まで泥が、という事もよくありました。
今ではベッドに上がる前にはちゃんと拭かせてくれます。
優しくチビの身体を拭きながら、たまに、チビの顔をワシャワシャと撫でます。
チビは優しいです。
私に好き放題触られても怒りません。
チビは温かいです。
チビをぎゅーと抱きしめてチビの頭に顔を乗せるとチビの頭の毛に、小さな葉が絡んでいるのがみえました。
葉。
私はその葉を掴み、見つめた後、その葉を自分の横に置きました。
「チビ、やっぱり、夢じゃなかったんだよね」
私はチビの口元を優しく撫でながらもう一度、チビの温もりを感じていました。
チビはベロンと私の首筋を舐めました。
チビ、くすぐったいよ。
私もお風呂、入りに行かなきゃな。
なんだか、今日は汗をいっぱいかいちゃって、身体がベタついている気がする。
結局、お母さんにも夕方に居た、男の人が誰だったのか聞いてない。
お母さんの悩みとかは全部私が聞きたい。
色々な大変な事も一緒に乗り越えてきたんだもん。
もし、お母さんに私以上に大事な人が出来てしまったらどうしよう。
お母さんは若くて綺麗だと私は思います。
お母さんだって、悩みもいっぱいあって私に相談しにくいこともあるよね?
お母さんも、恋、したりするのかな?
だけど、だけど......。
まだ、私だけのお母さんでいて欲しい。
こんな気持ちもあんまり良い感情ではないよね。
私は何気なくもう一度、自分の掌を見ました。
チビが、ベロンと私の掌を舐めたその時、私の掌が淡いボンヤリとした光に包まれました。
そして、あの透明な球体がゆっくりと掌から出てきました。
うわっ! なんか出てきた。
良かった。取り出せる。
そう思ったのですが、その球体は半分は掌の中に入ったままでした。
私は、その球体を恐々と見つめ、そっと左手の人差し指でつついてみました。
や、柔らかいです。
跳ね返るような感触、赤ちゃんの頬の様な柔らかさです。
チビがその球体をベロンと舐めました。
『ヒャッ』
何が、球体から変な声がしました。
チ、チビ、そんなもの舐めて、大丈夫なの?
お、お腹壊すかもしれないよ。
い、今の声、な、な、なに?
私は、背筋がゾワっと寒くなり怖くなって後ろを振り返りました。
普通に部屋の入り口の扉が見えます。
耳を澄ますと、水の音がします。
多分、お母さんが台所で茶碗を洗っている音です。
私は、左手で自分の頬をつねりました。
自分でつねったのですが、地味に痛いです。
ゆ、夢ではないみたいです。
もう一度自分の右の掌から半分出ている透明な球体を見ました。
その球体はもう一度淡く光った後、黒い横線が横並びに二つ、まるで目の様に浮かび上がってきました。
そして、その下には口らしきものも。
『ヒャー、滑っとしてて、気持ち悪かったですよ』
その球体、ゆっくりのんびり、可愛らしく喋り出しました。
私の手から飛び出しているので、見た目少し気持ち悪いですが、糸目で、口調ものんびりしているので、なんだか可愛らしいです。
「しゃ、喋れるの? 貴方、なんなの? え、ええっと」
私はどうしたら良いか分からなくてモゴモゴ言っているとチビがクンクンと匂いを嗅いでいます。
『ウヒャ、く、くすぐったいです、鼻息がくすぐったいですよ。ほれ、み、見習いさん、このケモノをどうにかしてくださいな』
私の掌から半分飛び出している透明な球体がそんな事を言っています。
このコが喋ると私の掌に振動が伝わって、私もなんだかくすぐったい。
な、何?
み、見習いさん?
それって、私の事なのかな?
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