第25話 えっ? どういう事? 優君に......き、聞けない。
フッと目が覚める感覚がありました。
私達は普通にいつもの家の近所を歩いていました。
右隣りには優君。私は真ん中でリードを持っていて左隣りにはチビがいました。
え......。
ど、どういう事でしょうか?
私はちょっと混乱し、状況を把握するのに少し時間がかかりました。
まさか、白昼夢だったのでしょうか?
ポケットにあるスマホを取り出すと、時間は、丁度、チビの散歩を始めた30分後の時間が表示されていました。
優君を見ると、顎に手を当てて考え事をしている様でした。
チビは電信柱に向かって、片足を上に上げて、オシッコをしていました。
......。
その様子を二人で見ています。
私も優君も何も喋らないのでなんだか気まずいです。
さっき、あった事は、実際にあった事なんだよね?
そう、優君に聞きたいんですけど、私だけおかしな体験をしたのだとしたら、変な子だと優君に思われてしまいます。
チビが歩き出し、私達も歩き始めました。
優君の顔色などはいつも通りに戻っているように見えます。少し頬が赤い気がしますが、暗くてよく分かりません。
綺麗だった月や星は雲で隠れてしまったようです。
「ゆ、優君」
私は勇気を出して、声をかけてみました。
「何?」
優君はそう答えてくれたけど、全然、こちらを向いてくれません。前を向いたまま、足を進めています。
優君の早足にチビも嬉しそうに早歩きになり、私は少し引っ張られてしまってます。
「ゆ、優君、ま、待って」
私のその言葉に反応して優君が歩くのを緩めてくれました。
「ごめん」
そう、言ってくれて、声のトーンは優しく、いつもの優君です。
だけど、やはりこちらを向いてくれなくて、自分の前髪を掻き上げて何かブツフツ呟いています。
先程のファンタジーな出来事、本当にあった事だったのでしょうか?
時間が経つと現実か夢だったのか、分からないというか、自信がなくなってきてしまいました。
なんだかもう、優君にも確かめ難いです。
そんな風に悶々しながら歩いていると、いつのまにか、チビのいつもの散歩コースになっていて、気がつくと、私の住んでいるアパートの階段の前でした。
今日、チビ、ウンコしなかったな。
明日は朝から食物繊維が入った芋の犬用オヤツでもあげようかな。
私が、そんな事を思っていたら優君が
「じゃあ、また明日な、階段、気をつけて。転ぶなよ」
そう言い、軽く手を振ったと思ったらすぐに背を向けて、優君の自宅に向かって走っていってしまいました。
結局言えませんでした。
私はチビが階段を上がりたそうにしていましたが、しばらく優君の帰った方を見ていました。
「ワンッ」
チビが帰るよ、っと催促している様に聞こえました。
私は応える様に軽くチビの頭を撫でて歩き出しました。
私はチビと一緒に階段を上がります。
チビは家の近くになると嬉しいのか早足になります。
だけど私がそそっかしいのもチビはちゃんと分かってくれているので、私が大変そうだと気づくと、階段を早く上る足を緩めてくれました。
「ありがとう、チビ。......ねえ、チビ。チビはあの、変な人、見たよね? さっきの変テコな出来事、現実だったんだよね?」
チビに言っても仕方がないと分かっていましたが、私は聞かずにはいれませんでした。
「ワンッ」
チビが答えるように大きく吠えました。
現実だったよ。
そう言っているかの様に、チビはブンブンにシッポを振っています。
だけど、私は犬語は分かりません。
チビが答えてくれていたとしてもなんと言っているのか聞き取ることは出来ません。
私は階段をいつの間にか上り終え、家の前に居ました。
部屋には明かりが点いていました。
あっ、お母さん、帰ってきてる。
玄関の扉を開けようと、ドアノブを握ろうとした自分の手の甲が目につきました。
私は顔の目の前まで、自分の掌あげ、見つめました。
いつもの手です。
この中に、変な物が入っていったのです。
もちろん現実じゃない方が良いです。
あれが現実だと思ったらちょっと恐いです。
だけど夢とも思えない。目を閉じるとあの不思議で幻想的な風景が、浮かんできます。
優君ともすごく、近づけたと言うか、昔に戻れたと言うか......。
すっごく、心臓がドキドキ、バクバクして、顔も身体も熱くなって。
現実じゃなかったんなら、ここぞとばかりにもっとくっついておくんだった。
まあ、私には、例え夢だとしても、そんな勇気ないんだろうけど......。
その時、頭の中で何か聞いた事のない音が二回しました。
一度目は高い音、二度目は低い音です。
な、何?
さっきの出来事、ほ、本当に夢だったんだよね?
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