第20話 俺以外の前でそんな、可愛い顔しちゃダメだよ(優 視点)

 水から美少年が形成された?


 なんだこの、現実離れしたこの状況は。



 やはりコレは夢の中なのか?


 この少年が形成されてから、妖精の様なものの大合唱したような歌声は聞こえなくなった。



 だか、先程の水飛沫を浴びてから何かが俺の身体にまとわりついている錯覚に陥っている。



 怠い訳ではない。



 むしろ体調は良い。



 元気すぎるぐらいなのだか、なんといったらよいのだろう。



 体中が熱すぎる。



 聞こえないのに何かからずっと語りかけられている。そんな感覚と言ったら良いだろうか?



 俺も上手く説明できない。



 そんな風にボーとした頭でウダウダ考えていた俺は、先程の美少年が、知羽ちゃんに鼻と鼻がくっつきそうな程、近寄っているのを見えた。

 俺は慌てたが、この変な身体の状態からなのが瞬時行動出来なかった。



 おい、だ、誰の許可を得てそんなに知羽ちゃんに近寄っている。



 俺は身体は動けていなかったが、頭の中では怒り狂っていた。



 こんなに感情が揺れるのも俺らしくない気がした。


 いやいや、知羽ちゃんに関してはそうでもないかもしれないが......。


 



 そんな風に思っていたのは俺には、すごく長い時間だった気がしたが、実際には短い時間だったみたいだ。

 知羽ちゃんは、その美少年から逃げる様に、慌てて後ろに下がっていたが、知羽ちゃんの両手は片方が俺、もう片方がチビのリードという風に塞がっている。


 そんな無理な状況で後ろに下がり、しかも知羽ちゃんは運動神経があまり良くない。もちろん反射神経も。


 知羽ちゃんがバランスを崩した。


 あ、危ない。


 俺は夢中だった。

 すると、あんなに自分では外れなかった知羽ちゃんの掌を簡単に離すことができ、知羽ちゃんの身体を支えることができた。


 


 訳が分からないが、まあ、知羽ちゃんを助ける事ができたから良しとしよう。

  

 知羽ちゃん、本当に危なっかしいな。

 おかげでこんなに知羽ちゃんに触れる事ができているんだけど。


 でも、触れる度にこんなに動悸もするし、脈も激しくなるんじゃ、本当に俺の身体はもたない気がする。

 



 知羽ちゃんも、びっくりしたのか顔が真っ赤だ。


 そうだよな、あんな間近で人間離れしている程の美少年の顔を見たんだもんな。


 しかも、知羽ちゃんのちっちゃい頃に好きだったキャラに似ているし。


 


 


 知羽ちゃん、もしかしてアイツに一目惚れしてしまったんじゃないだろうか。



 


 現実離れした中にも、チビのハアッハアッと言う声や、時おり吠えたりする声は響いている。訳が分からない、この幻想的な空間が少し和んだ気がする俺だった。



「な、何ですすか? あ、あたたアナタは何者なのですか?」


 知羽ちゃんがその美少年に向かって、そんな事を言っていた。


 声が裏返っていて、どもっている。

 慌てている姿がなんとも可愛らしい。

 顔が真っ赤で息も切れ切れな知羽ちゃん。


 



 知羽ちゃん、俺以外の前でそんな、可愛い顔しちゃダメだよ。


 


 そんな時、美少年が飄々とした様子で知羽ちゃんに喋りかけていた。


『何度も声をかけたじゃろ? あんまり気にされなさすぎるのも悲しくてな〜』



 俺は二人が、喋るのを遮ろうと知羽ちゃんの前に出て、知羽ちゃんを背に隠した。

 


『ほう。大丈夫か? 随分身体が辛そうじゃ。私の光と滴に影響されてしまっているようじゃな』



 その言葉を聞き、俺は一瞬固まった。


 どう言うことだ?



 この身体の変化はこいつのせい?



 さっきの光と滴のせいだと言うのか?


【そう言うことじゃ、ワシの使っていた力がお主に影響したみたいじゃな】



 その声は発せられていた訳じゃない。

 直接、俺の頭に語ってきた。



 ど、どういうことだ?


 コイツが故意に俺をこんな風にしたと言うのか?


【そうではない。まあ、タイミングが良くなかったのと、ワシの能力と、お主の身体の体質と言うか相性が良すぎたと言うたらいいのかの?】


 俺の考えている事が聞こえているのか?


 頭の中で直接会話してしまっている。


 俺はだんだん息が切れ切れになってきている。

 身体も熱すぎる。


 何だか目元に涙も溜まってきた。



 その時、知羽ちゃんが、俺の腰に巻いている、上着の袖を握り後ろから軽く引っ張った。


 俺は振り返り知羽ちゃんを見る。


 知羽ちゃんは心配そうに俺を見つめている。


「なんでもない、だ、大丈夫だから、しんどい訳じゃないから」


 俺は上手く声が出せなかったが、なんとかそれだけ言った。


 心配そうに見つめている知羽ちゃんは、今にも泣き出しそうな顔をしていた。


 本当に、身体の調子が悪い訳じゃないんだ。


 な、泣かないで、どうしよう。

 知羽ちゃんに、余計な心配をかけてしまうよ。

 でも今の俺では喋れば喋るほど心配かけてしまうよ、どうしよう。


 知、知羽ちゃん。

 上手く言えないけど、俺は本当に大丈夫なんだ。

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